忘れられない微笑み 雪降る朝のロマンス 

投稿日 2017年11月29日

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上越の山にて 紅葉の尾根

 

 

20代後半だったか、ある年の11月の初旬。私は上越の山に居た。

 

その山域としては、いつ雪が降ってもおかしくない時季である。

 

辿りついた山小屋はまだやっていた。

テントなど野営のための一式は持っていたのだが、煙突から煙が立ちのぼる山小屋を見て、泊まってみたくなった。

 

小屋の主人によれば、明日、この山小屋を閉めて下山するという。

 

小屋の中はストーブで暖かいが、何か閑散としているのはそのせいだろうか。

大半の窓には、すでに雪よけ板が掛けられていた。

 

客は私ひとりのはずだったが、小屋の奥で何やら人の気配がする。

 

覗きこんだ私の視線の先から、意外にも娘の微笑みが返ってきた。

 

主人の話では、荷降ろしの手伝いで来てくれたらしい。

 

「私の娘だが、食糧などを定期的に麓からここまで運び上げてくれる。」と、主人は付けくわえた。

 

1500mもの標高差を登ってくるのは辛かろう。

 

街に出て、ショーウインドウでも見て歩きたい年頃に見えたが。

 

無口な娘だった。

 

その夜は主人が食え食えと出してくれた肉や野菜で、すき焼きパーティーのようなぜいたくな食事になった。食材は、娘が担ぎ上げたものだろう。

 

少し日焼け顔したポニーテールの娘だったが、ついぞ話をすることはなかった。

 

翌朝、寒いと思ったらやはり雪が降り始めていた。

 

小屋を離れる私に向かって、バンダナをした娘が、すこし顔を斜めにして微笑みながら手を振ってくれていた。

 

その娘のことはその後の私の心にいつまでも残った。

声さえも聞いていないのに。

 

......

 

 

河合奈保子の「ハーフムーン・セレナーデ」でも聴いてみようか。

 

 

 

 

(熊五郎)

 

コメント(2)

  • 思い出の箱の中にはたくさんの女性のポートレートが詰まっていそうですねえ。 (agewisdom) 2017/11/29(水) 午前 10:45

  • > agewisdomさん はい、女性しか頭に残っていないというのが正直なところです。^-^;(熊五郎) 2017/11/29(水) 午前 10:53