現代登山全集 6 「八ヶ岳」

投稿日 2017年07年02日

まず八ヶ岳のことだが、「八ヶ岳」という山は無く八ヶ岳火山山塊の総称だが、この山塊は比較的小規模だ。小淵沢から蓼科山の麓までとすると、その長さは約66kmでアルプスと呼ぶには小さい。しかしその存在感は大きく、ことに中央線からの眺めはきれいな裾野をひく八ヶ岳の美しさには誰もが感激する。これは明治大正期、中央線が開通したころから先人の筆にもなっている。

 

天狗岳辺りを境にして南八ヶ岳、北八ヶ岳と呼び分けているように、その山容は異なる。南八ヶ岳は男性的でアップダウンが激しく、岩場も多いのに対して、北は女性的でゆるやかな山容となっており、苔蒸した樹林が有名だ。いずれにしても八ヶ岳全体はほぼ一直線の山塊で、東側も西側も人里に近く、登降路も放射状にのび、交通手段も便利なことから、むかしから危険の比較的少ない初心者向きの山とされている。

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カバー表の写真は冬の赤岳石室と赤岳

  

 

私がこの本を手にしたのは八ヶ岳に憧れていたころだった。まだそんなに多くの山には登っていなかった私にとっては、八ヶ岳がオールシーズンで入門的な山と知り、高山で美しく、アプローチの短い山域として注目していた。

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右 東天狗と左 西天狗

西天狗の三角点は標高2645.8m

中央の樹林帯は箕冠山(みかむりやま)

手前に夏沢峠の山小屋が見えている

 

そんなころ、ひとつのまとまった八ヶ岳の資料として選んだのがこの本だった。1900円という当時の私としては高価なこの本を、安月給ながら思い切って購入したのだから、当時の山への憧れの強さが今でも伝わってくるようだ。高いだけあってハードカバーで、函もあるので保存性がよく、実際、私のもきれいなものだ。

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一般ルートの説明

 

この東京創元社 現代登山全集は、中部山岳から東日本の山域をカバーしている全集で、「八ヶ岳」はその6巻目にあたる。全集の特徴は、カバー範囲は中部山岳から東日本に限られるが、日本の山と人とのかかわりから、登山の基礎技術の解説を含み、各山域の巻ではその山域の概説、紀行、随想、記録、ガイド、一般ルートからバリエーションルート、岩場に至るまで、広範囲に丁寧に説明されている点に好感が持てる。日本の山岳を広範囲にカバーしている全集的な山岳書としては、これの他に白水社の「日本登山体系」があるが、こちらは岩稜ルート、沢などが主で一般登山向けの読み物ではない。

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沢ルートの説明

 

 

現代登山全集は全10巻で以下から成っている。

 

1 日本の山と人

2 槍・穂高・上高地

3 剣・立山・黒部

4 白馬・不帰、鹿島槍

5 北岳・甲斐駒・赤石

6 八ヶ岳

7 谷川岳

8 富士・丹沢・三ツ峠

9 山の危険 山の遭難

10 登山の基礎と技術

 

下線付きは所有

 

この各巻のタイトルをみるといささか中部から関東のみに変調ぎみだし、関東としても奥秩父、秩父の山域が紹介されていない。このため全集と言っても限られた山域を取り上げているにすぎない。たとえば南アルプスとせずに、北岳・甲斐駒・赤石と著名な山名をタイトルとしている点は面白い。やや専門的な内容になるが白水社の「日本登山体系」は北海道から九州まで全域をカバーしているのとは山域の取り上げ方が違う。

 

この第6巻「八ヶ岳」だが、稿末の目次に見るように、その人の著書からの抜粋もあるが、著名な人たちの八ヶ岳への思いがつづられている。河東碧梧桐、平賀文男、山口耀久、加藤文太郎、串田孫一など。とくに同じ技術系サラリーマンだった加藤文太郎の「冬の八ヶ岳単独行」は、冬山への憧れを刺激してくれた。

 

概説の「八ヶ岳」は河東碧梧桐(へきごとう)の著書「日本の山水」から八ヶ岳の部分を抜粋したもので、いきなり難しい文章に面喰ってしまうが、その後を読み進む上での刺激には十分だ。河東碧梧桐が八ヶ岳をどう見たか面白いところだ。

 

ガイド的説明は一般ルートのみでなく、積雪期と沢ルート、岩壁に関しても含まれる。実際の登高にも役立つが読み物としても面白い。

 

 

目次

 

概説

 八ヶ岳(河東碧梧桐)

 八ヶ岳と日本アルプス(平賀文男)

 八ヶ岳に登る人のために(山口耀久)

 八ヶ岳火山群の地形(佐藤 久)

紀行・記録・ガイド

 八ヶ岳本峰

  本峰縦走と東面の一般登路(住古豊秀)

  西面の一般登路(藤原 功)

  積雪期について(山口耀久)

  紀行・記録

   信州八ヶ岳(河田 黙)

   甲州八ヶ岳(武田久吉)

   冬の八ヶ岳単独行(加藤文太郎)

   権現岳(中村知一)

   冬の白窪岩小屋と権現岳(小池文雄)

   山上の我が家(加藤泰三)

   八ヶ岳紀行(中川一政)

   八ヶ岳登山記(亀井勝一郎)

   雪と岩の中で(芳野満彦)

 八ヶ岳の裾野

  裾野のコース

   紀行・随想

    念場ガ原・野辺山ノ家(尾崎喜八)

    八ヶ岳の裾野(川崎精雄)

    南信彷徨(勝見 勝)

    佐久雑記(相馬遷子)

    南佐久の古き高原(安川茂雄)

 八ヶ岳の岩場

  バリエーションルート覚書(山口耀久)

   概説 赤岳東壁 地獄谷 立場川 広河原沢奥壁 阿弥陀岳北壁

   赤岳西壁 横岳西壁

  稲子岳の岩場(獨標登高会)

   概説 南壁 東壁

  記録

   赤岳東壁(倉方武雄)

   地獄谷・赤岳沢(栗原 彰)

   地獄谷・権現沢右俣(川上昇良)

   地獄谷・権現沢左俣(住古豊秀)

   蟇滝沢(松濤 明)

   広河原沢本谷第一ルンゼ(伊藤一男)

   広河原沢本谷第二ルンゼ(川上昇良)

   阿弥陀岳北壁フェース(山口耀久)

   阿弥陀岳北西稜(紫峰山岳会)

   赤岳西壁主稜(箙 革命)

   横岳大同心正面岩壁(東京雲稜会)

 北八ヶ岳・蓼科山

  無雪期(小島敏郎)

   概説 北八ヶ岳縦走 白駒池周辺 雨池をめぐる四つの道

   北八ヶ岳諏訪側歩道 佐久側登山路について 北八ツ散策コース

  積雪期(山口耀久)

   概説 縦走 渋ノ湯-高見石 高見石-白駒池 高見石-麦草峠

   麦草峠-白駒池 高見石-にゅう-高見石 白駒池-白樺尾根 麦草峠-雨池

   高見石-横岳 黒百合平-天狗岳 みどり池を中心にして 

 紀行・随想

  「にゅう」を繞る(千坂正郎)

  白駒池周辺(高須 茂)

  みどり池の冬(織内信彦)

  森林高地の三日間(吉田栄次)

  八ヶ岳に追いかえされる(梅崎春生)

  大河原峠(深田久弥)

  たてしなの歌(尾崎喜八)

 霧ガ峰

  霧ガ峰(武田久吉)

  雪どけの頃(串田孫一)

  山ずまい(手塚宗求)

 

 

 

私はこの本を開くたびに、美濃戸口から赤岳鉱泉への道を、近づいてくる横岳の稜線や大同心などの岩壁をながめながらトボトボと歩いたのを思い出す。

 

 

 

 

(熊五郎)

コメント(2)

  • 雪を渡りてまた薫風の草を踏む 碧梧桐だったかな もちろん山には登ったことはありません。 (agewisdom) 2017/7/2(日) 午後 3:54

  • > agewisdomさん 子規門下の碧梧桐。俳人はまた旅人でもあったのでしょうか。(熊五郎) 2017/7/3(月) 午前 10:35