「車窓の山旅 中央線から見える山」 山村正光著

投稿日 2017年06年14日

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実業之日本社 「車窓の山旅 中央線から見える山」山村正光著

1985年(昭和60年)2月発行 1960円 286ページ

収録山座数 130座(重複あり)

カバー装画 山里寿男

展望解説図 藤井一美

沿線イラスト・マップ 藤井龍二

カバー・口絵構成 町田明夫

 

 

中央線(中央本線)は、関西に居た子供のころ、私でも知っていた旧国鉄の路線だ。なぜ関西人の私が関東の中央線を知っていたのか。それは地図を眺めるのが好きで関東平野を眺めていた時、何十キロも直線の線路があることに驚いた。どうしてこんなに直線で線路が引けたのか。今でも疑問だ。(直線区間 新宿 - 立川間は明治22年甲武鉄道として開通。その後八王子、大月、甲府へと延長。明治39年には松本までが開通している。開通当時、甲府まで5時間弱かかっている。本文より)

 

そんな私が就職が決まって上京。ちょっと仕事にも慣れてきた会社に入って三年目の冬、長野県の諏訪に出向を命じられた。、私にとっては極寒の地、諏訪に三ヶ月あまりも留まって、見知らぬ土地、見知らぬ人たちとともに仕事をすることになるとは思いもしなかった。その頃有名なカメラのOM-〇の検査システム。コンピュータの制御プログラムのデバッグだ。

 

当然、2,3週間に1度は東京の自宅に帰って、会社にも報告で出社したが、とにかく新宿から下諏訪までの中央本線の旅は私のその後の人生を変えるほどのものだった。山へのあこがれが決定的になったのだ。

 

特急が穴山駅から日野春駅辺りに近付くと、車窓には甲斐駒ヶ岳が白く勇壮な姿を見せる。何度も通っているうちに、素晴らしい冬空の下に、磨利子天を抱えた大きな甲斐駒ヶ岳が全容を見せることがある。言うまでもなく、甲斐駒ヶ岳は南アルプス連峰最北端の山だが、その頃の私の南アルプスに対する知識はひんそで何もわかっていなかった。単に、甲斐駒ヶ岳への憧れと同時に、あの山の向こう側はどうなっているのか、知りたくてたまらなくなった。これが私が南アルプスに接近していくきっかけである。

 

諏訪での仕事は極寒ということが一番つらかった。諏訪大社近くの旅館では毎晩温泉に浸かれたが、朝の出勤は大変で、大社の前の坂でバランスを崩したとき、思わず手放してしまったアタッシュケースが、するすると坂を滑って行ったのには閉口したものだ。

 

しかし嬉しいこともあった。仕事の部屋からは真っ白な八ヶ岳の赤岳が見えていたのだ。甲斐駒ヶ岳は少しハードルが高いとしても、八ヶ岳なら登れそうだ。そう思って、出向が終わったら夏に登ろうと企て、はたしてその年の夏に赤岳の山頂に立ったのである。甲斐駒ヶ岳には数年後登った。

 

その後、中央線は北アルプス、八ヶ岳、南アルプス、どこに行くにしてもお世話になる路線で、夜遅く新宿駅のホームに並ぶのが恒例となった。

 

そんな中でこの「車窓の山旅 中央線から見える山」を手に取ることになった。中央本線は山に登るものなら当然のようにお世話になるが、その名前の通り日本列島中部のど真ん中を貫いているため、見える山も多い。かの小島烏水も明治45年発刊の「旅行」で「冬季山岳観望汽車旅行」として飯田町から名古屋までの車窓から見える山々を詳述しているようだ。(本文より) 冬季の晴れた昼間ならよいが、実際のところは、山屋はほとんど夜行に乗るため、景色は楽しめないのだが、その分このような本は興味深い。あの辺りからあの山が見えるのかと、いちいち感心させられる。その詳細さはさすがに国鉄に39年間勤務されていた著者独自のものだろう。

 

中央線は新宿に発して、長野県の松本に至り、更には名古屋が終点の長距離路線である。松本までを考えると、東京都、神奈川県、山梨県、長野県にまたがって走っている。車窓から見える山は、富士のほか、丹沢山塊、奥秩父、秩父、南アルプスの前衛、南アルプス、八ヶ岳、美ヶ原、中央アルプス、御岳、乗鞍、北アルプスと枚挙にいとまがない。

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口絵 中央線勝沼駅上方からの南アルプスの展望

中段 南アルプス全望 左端 布引山、右端 甲斐駒ヶ岳

下段右 北岳、間ノ岳、農鳥岳の部分拡大

下段左 赤石岳、悪沢岳の部分拡大

 

この本では、新宿から松本までを「新宿 - 笹子」「初鹿野 - 韮崎」「韮崎 - 松本」の3区間に分けて、それぞれに沿線イラスト・マップ で、どのあたりからどの山が見えるかを示したうえで、それぞれの山の見え方を写真と展望解説図で解説している。

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沿線イラスト・マップ 初鹿野 - 韮崎間

どのあたりから、どの山が見えるか示されている

 

山の解説は著者が知識人であることを物語っているものばかりだ。車窓からの見え方については写真と展望解説図が十分説明しているため、言葉での説明は多くない。それよりはその山の歴史とのかかわり、云われ、土地との関わり、著者が登った当時の風俗、地質、文学における登場など、勉強になることが多い。

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見える山ごとに見開き2ページで解説されている

展望写真と展望解説図が添えられておりわかりやすい

これは甲斐駒ヶ岳の例

若かりし頃の私にもこのように見えた

 

甲斐駒ヶ岳を読むだけでも勉強になる。信州伊那の人たちはこの山を東駒という。それに対して中央アルプスの木曽駒を西駒という。中央アルプスには南駒ヶ岳(南駒)もある。この辺りの山麓は駒城、牧ノ原などの地名が示す通り馬産の地であり、駒ヶ岳の名もそこから来ているようだ。甲斐駒ヶ岳は甲州側は黒木で覆われているが、伊那側は花崗岩の白砂で輝いているから、白崩山と呼び別の山と思われていたが、武田久吉博士によって異名同山であることが実証された。著者は戦争から復員した昭和20年の10月に黒砥尾根から登った。その頃五合目の儀作小屋は廃屋に近かった。戦争の金属供出もここまでは届かず、鎖場は無事だった。山頂には「祝出征」「祈武運長久」などののぼりが力なげにぬれていた。開山は文化13年(1816年)、や文政年間(1818 - 1830)という説がある。かつて駒ヶ岳は白装束の登拝客でにぎわった。その姿もいまはない。盛時のさまを残すのは登山道わきの石祠群だけである。などなど。(本文より抜粋)

 

このところなにかと便利な車利用が多いが、若いころはよく電車で山に行ったものだ。電車の旅もまた格別なものがあり、同乗者との出合いやさまざまなエピソードが生まれることも多く、楽しみもある。車窓からの展望も楽しみのひとつだ。目まぐるしく変わる景色、飛んでゆく家の軒や信号機。のんびりとした山里。夜行でなければ車内で寝ることはせず、見える山の名を言い当てながら座席でほくそ笑んでいたいものだ。

 

中央線から見える山として以下の山々が挙げられている

130座(重複あり)

 

1. 富士山

2. 雲取山

3. 武甲山

4. 高水山

5. 鷹ノ巣山

6. 大岳山

7. 三頭山

8. 富士山(その2)

9. 高尾山

10. 丹沢山

11. 大山

12. 陣馬山

13. 石老山

14. 大室山

15. 高柄山

16. 土俵岳

17. 御前山

18. 倉岳山

19. 高畑山

20. 扇山

21. 百蔵山

22. 雁ヶ腹摺山

23. 黒岳

24. ハマイバ丸

25. 岩殿山

26. 菊花山

27. 高川山

28. 鶴ヶ鳥屋山

29. 三ツ峠山、御巣鷹山

30. 滝子山

31. 富士山(その3)

32. 笹子雁ヶ腹摺山

33. 岩崎山

34. 間ノ岳・農鳥岳

35. 悪沢岳

36. 赤石岳

37. 辻山

38. 甲武信岳

39. 思入山

40. 帯那山・水ヶ森

41. 塩ノ山

42. 聖岳・笊ヶ岳

43. 小楢山

44. 乾徳山・黒金山

45. 大烏山

46. 破風山・雁坂嶺

47. 三窪

48. 大菩薩嶺

49. 源次郎岳

50. 甲州高尾山

51. お坊山

52. 雲母山

53. 達沢山

54. 御坂黒岳

55. 釈迦ヶ岳

56. 神座山

57. 兜山・棚山

58. 柏尾山

59. 大蔵寺山

60. 富士見山

61. 節刀ヶ岳

62. 王岳

63. 源氏山

64. 毛無山

65. 蛾ヶ岳

66. 大唐松山

67. 八人山

68. 七面山

69. 板垣山

70. 三方分山

71. 愛宕山

72. 櫛形山

73. 要害山

74. 湯村山

75. 太刀岡山

76. 地蔵岳

77. 国師岳

78. 茅ヶ岳

79. 富士山(その4)

80. 甘利山・千頭星山

81. 赤岳

82. 観音山・赤抜ノ頭

83. 飯盛山

84. 鋸岳

85. 甲斐駒ヶ岳

86. 金峰山

87. 瑞牆山

88. 斑山

89. 美し森

90. 中山

91. 鞍掛山

92. 雨乞岳

93. アサヨ峰

94. 北岳

95. 奥穂高岳

96. 日向山

97. 入笠山

98. 釜無山

99. 槍ヶ岳

100. 霧ヶ岳

101. 蓼科山

102. 縞枯山

103. 塩尻峠

104. 富士山(その5)

105. 霞沢岳

106. 守屋山

107. 三峰山

108. 経ヶ岳

109. 富士山(その6)

110. 鷲ヶ岳

111. 木曽駒ヶ岳

112. 大城山

113. 戸倉山

114. 塩見岳

115. 荒川中岳

116. 鶴ヶ峰

117. 霧訪山

118. 鹿島槍ヶ岳

119. 玉ボッチ山

120. 白馬岳

121. 鉢盛山

122. 鉢伏山

123. 鍋冠山

124. 燕岳

125. 仙丈岳

126. 王ヶ鼻

127. 常念岳

128. 大滝山

129. 有明山

130. 乗鞍岳

 

撮る・調べる・確かめる -- 車窓展望のたのしみ方 --

 

 

 

 

(熊五郎)

コメント(2)

  • あとを継ぐ者がいなくなり疎開農家だった夫の実家はもうありません。でも、伊那市にあったころはよく中央線で通いました。諏訪にもよったことがあります。飯田線で名古屋に抜けて遠回りしたことも。懐かしいです。 (agewisdom) 2017/6/14(水) 午前 10:36

  • > agewisdomさん 鉄道に絡んだ想い出はどなたにもあるものですよね。私は東京から大阪へ、新幹線を使わずにわざと中央線でのんびり帰ったことも何度かあります。(熊五郎) 2017/6/14(水) 午後 7:44