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「静かなる山」 川崎、望月、山田、中西、横山 共著

投稿日 2017年06年03日

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茗渓社 「静かなる山」川崎精雄、望月達夫、山田哲郎、中西 章、横山厚夫 共著

昭和53年7月発行 1700円 205ページ

収録山座数 97

川崎精雄 18

望月達夫 19

山田哲郎 19

中西 章 24

横山厚夫 17

装釘・口絵 藤井 実

写真数 16 すべて著者たちが撮ったもの(モノクロ)

 

書名の「静かなる山」を見て、さてどんな山が収録されているかと思いつつ開けば、それは予想のとおり聞きなれない山がかなり含まれていた。

 

この本が発行された昭和53年ごろは、まだ登山ブーム冷めやらぬ頃。有名な山、いや、誰もが登る山はまだまだ人が多かったにちがいない。だから著者たちは静かな山を取り上げたかったのか。それは想像するしかない。

 

まえがきを書いている望月氏はこう言っている。

 

「もともと山登りとは、登る人と山とが向い合うことであり、独りで登る場合は勿論、数人で登る場合でさえも、登る人一人びとりが、それぞれに山と向い合って、楽しみもし、苦しみもし、或いは考えもしているのである。その点では山登りは最も個性的な営為であり、愉しみといっていいだろう。と同時に、静かなる山の場合にこそ、山はそれに向い合った登山者の肌身に、ひたひたと触れてくるはずである。」

 

掲載されている山は下(稿末)に列挙したが、40年間山に登ってきた私にとっても、聞き慣れない、いや聞いたこともない山が並んでいる。

 

山伏

篠井山

大群山

高間山

大高山

大白森山

家老山

加賀場山 などなど

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口絵 藤井 実氏 画 「万場の家並み」 

 

この本にはカバーの表に山のペン画、背表紙、裏表紙、見開きにかわいいカット、カラーの口絵が添えられている。口絵以外も藤井 実氏の手によるものであろうか。とにかくこの口絵は、しみじみと感じるものがあるので、少し書いてみた。(下記参照)。

 

関連記事: 西上州 「万場の家並み」

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写真 左 皇海山(撮影 山田氏) 右 会津の二岐温泉(撮影 望月氏)

 

16枚の写真もすばらしいものばかりだ。すべてモノクロだが、各著者が撮ったもの。とくに横山氏の写真はネット上に多く残っており、ボンネットバスや、山小屋、登山者のスタイル、山で働く人たちや、山里の様子までが当時を再現させてくれる。この本の写真はその一部だ。

 

横山氏は奥様同行で登山することが多かったのだろうか。写真には奥様らしき女性の後ろ姿が多く写っている。下の写真もそのひとつだ。

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写真 左 三国峠から十文字山へ(撮影 横山氏) 右 唐松尾山の展望(撮影 横山氏)

横山氏の写真にはよく奥さまの後姿が登場する

 

右の写真は、唐松尾山から100mmの望遠レンズでとらえた甲武信三山の写真で、当時一眼レフでしかも100mmの望遠レンズというとかなり重たかったのではないかと推察するが、このようなよい写真が残っているということは、彼らの記録に残そうという意欲がかなり高かったと考えられる。

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各山の説明は見開き2ページに収められている

 

山はすべて見開きの2ページに収められている。それぞれに興味深い話が載っているが、その中のひとつを紹介する。

 

高田山

 

高田山を書いたのは中西 章氏だ。氏はこのように書いている。(要約)

 

「私の好きな吾妻川沿いの山や、野反湖周辺の山々を含む二十万図となると、「高田」「長野」「宇都宮」である。この付近の一等三角本点の山は巻機の割引岳に岩菅山、それに赤城の地蔵岳である。この三山を結ぶと割引と岩菅間を底辺とする二等辺三角形ができあがる。一等本点はほぼ四十五キロから六十キロ位の距離があるが、測量の正確さを期すため、一点に対しておよそ二十キロ前後の間隔で一等三角点の補点が置かれているという。岩菅山から赤城地蔵岳間は直線で六十キロあるから、補点設置には二山必要なわけだ。

 

地蔵岳から二十キロというと上州子持山だが、これは一等補点であることは登って確認している。すると、あとひとつはコンパスをあてて気がついたのだが、高田山の存在である。補点を置くような位置ではあるが自信はなかった。もっとも測量点はなにも登山者のためにあるのではないから、登っていい山とはかぎらない。

 

・・・・・・ 雪をかきわけて、遮二無二前進二時間。古ぼけた測量杭が雪中に立つ頂にやっとついた。東西に展望がひらけ、西には松岩山、その奥に草津白根が大きい。東は十二ヶ岳、小野子山、それにもまして赤城山がすばらしい。測量杭の直下をピッケルで掘ると三角点標石が出てきた。大きい、十八センチ角だ、まさしくそれは一等補点であることを示していた。」

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一等三角本点が設置されている赤城山地蔵岳と岩菅山間は約60km

その間に20kmおきに一等三角補点が置かれているはず。

子持山の補点は確認してある。とすれば、

約20km離れた山「高田山」にも補点があるはず。

筆者は高田山山頂で雪をかぶった補点を探し当てた

 

今でこそネットで一等三角点のリストを探すのは容易だが、当時はまだ情報量が少なかったのだろう。だから補点をさがして人があまり登らないような山に登って、自分の足で確かめる楽しさがあったとも言える。

 

補足:現在、一等三角点の数は974点。うち本点は324点、補点は650点。本点は1500平方キロメートルに1点、設置間隔は約45km、必要に応じて補点が500平方キロメートルに1点、約25km間隔で設置される。柱石の一辺は18cmと、二等、三等よりも大きい。

 

多くの人はガイドブックを見て山に登る。それは必要な事だ。だがガイドブックは言わばHow To本。山にかかわる本が数多くある中で、ガイドブックではない先人の残した山に向う心が書きとどめられているものも多い。山に向かい合う気持ち。それを養成してから山に登りたいものだ。

 

 

収録されている山

 

1. 山伏 2013.7m 山梨・静岡県境 (望月)

2. 十枚山 1719m 山梨・静岡県境 (望月)

3. 前黒法師岳 1943m 静岡県(川崎)

4. 篠井山 1394m 静岡県(中西)

5. 富士見山 1639.5m 山梨県(中西)

6. 御池山 1905.3m 長野県 (望月)

7. 矢倉岳 867m 神奈川県(山田)

8. 大山三峰山 934m 神奈川県(川崎)

9. 大群山 1588m 神奈川・山梨県境(横山)

10. 秋山二十六夜山 971.8m 山梨県(山田)

11. 道志二十六夜山 1297.8m 山梨県 (望月)

12. 甲東不老山 839.4m 山梨県(中西)

13. 高柄山 733m 山梨県 (川崎)

14. 高川山 975.9m 山梨県(山田)

15. 御正体山 1681.9m 山梨県(山田)

16. 雨ヶ岳 1771.7m 山梨・静岡県境(山田)

17. 節刀ヶ岳 1736m 山梨県(川崎)

18. 釈迦ヶ岳 1641m 山梨県(横山)

19. 鶴ヶ島屋山 1374.4m 山梨県 (望月)

20. 達沢山 1358m 山梨県(横山)

21. 神座山 1415m 山梨県(川崎)

22. 甲州高尾山 1091m 山梨県(川崎)

23. 笹子雁ヶ腹摺山 1357.7m 山梨県 (望月)

24. 源次郎岳 1476.6m 山梨県 (望月)

25. 黒川鶏冠山 1690m 山梨県(横山)

26. 大鳥山 1860m 山梨県 (望月)

27. 水ヶ森 1553m 山梨県(川崎)

28. 大西山 1741m 長野県(川崎)

29. 有間山 1210.5m 埼玉県(横山)

30. 蕎麦粒山 1473m 東京都・埼玉県境(横山)

31. 秩父御岳山 1080.5m 埼玉県 (望月)

32. 飛竜山 2069m 山梨・埼玉県境(横山)

33. 唐松尾山 2019m 山梨・埼玉県境(横山)

34. 藤尾山 1606m 山梨県(横山)

35. 十文字山 2072m 長野・埼玉県境(横山)

36. 五郎山 2132m 長野県(山田)

37. 男山 1851m 長野県(山田)

38. 御座山 2112.1m 長野県(山田)

39. 茂来山 1717.8m 長野県(横山)

40. オドケ山 1191m 群馬県(横山)

41. 笠丸山 1189.1m 群馬県 (望月)

42. 天丸山 1505.8m 群馬県(山田)

43. 諏訪山 1549m 群馬県(川崎)

44. 杏ヶ岳 1292m 群馬県(中西)

45. 根本山 1197m 群馬・栃木県境(山田)

46. 浅間隠山 1756m 群馬県(川崎)

47. 十二ヶ岳 1200.9m 群馬県(山田)

48. 高間山 1341.7m 群馬県(中西)

49. 松岩山 1512.1m 群馬県(中西)

50. 大高山 2079.4m 群馬・長野県境 (望月)

51. 白砂山 2139.7m 群馬・長野県境(山田)

52. 岩菅山 2295m 長野県 (望月)

53. 鳥甲山 2037.6m 長野県 (望月)

54. 鍋割山 1332m 長野県(川崎)

55. 黒桧山 1828m 群馬県(中西)

56. 高田山 1212m 群馬県(中西)

57. 武尊山 2158m 群馬県(川崎)

58. 笠ヶ岳 2057.5m 群馬県(山田)

59. 荒沢岳 1968.7m 新潟県 (望月)

60. 未丈ヶ岳 1552.8m 新潟県(中西)

61. 御神楽岳 1386m 新潟県(川崎)

62. 貉ヶ森山 1315m 福島・新潟県境(山田)

63. 土埋山 696.5m 福島・新潟県境(中西)

64. 日本平山 1081.1m 新潟県(中西)

65. 太郎助山 1417.6m 新潟県(中西)

66. 南月山 1776m 栃木県(横山)

67. 大白森山 1656m 福島県(横山)

68. 二岐山 1544.3m 福島県(中西)

69. 三倉山 1854m 栃木・福島県境(山田)

70. 家老岳 1413.7m 福島県(中西)

71. 袈裟丸山 1878.2m 群馬・栃木県境(横山)

72. 皇海山 2143.6m 栃木・群馬県境(山田)

73. 錫ヶ岳 2388m 栃木・群馬県境(中西)

74. 男体山 2484.4m 栃木県(横山)

75. 大木戸山 1286.8m 栃木県(中西)

76. 大鳥屋山 693m 栃木県(中西)

77. 羽賀場山 774m 栃木県(中西)

78. 雨巻山 533m 栃木県(中西)

79. 明神岳 1594m 栃木県(川崎)

80. 枯木山 1755m 福島・栃木県境(川崎)

81. 台倉高山 2067m 栃木・福島県境(横山)

82. 釈迦ヶ岳 1794.9m 栃木県(中西)

83. 七ヶ岳 1635.8m 福島県(山田)

84. 荒海山 1580m 栃木・福島県境(中西)

85. 大博多山 1314m 福島県(川崎)

86. 窓明山 1842.3m 福島県(山田)

87. 会津朝日岳 1624.2m 福島県(山田)

88. 博士山 1482m 福島県(中西)

89. 額取山 1008.7m 福島県 (望月)

90. 天狗角力取山 1360m 福島県(川崎)

91. 大戸岳 1415.9m 福島県(中西)

92. 西吾妻山 2024m 山形・福島県境 (望月)

93. 蓬田山 952.2m 福島県 (望月)

94. 仏具山 670.5m 福島県 (望月)

95. 鎌倉岳 670m 福島県 967m 福島県 (望月)

96. 三大明神山 710m 福島県(川崎)

97. 吾国山 518.2m 茨城県(中西)

 

 

 

 

 

(熊五郎)

コメント(2)

  • 宇都宮以外は聞いたこともありませんでした。チンプンカンですねえ。 (agewisdom) 2017/6/3(土) 午後 7:47

  • > agewisdomさん 山の魅力に酔う一冊です。 (熊五郎 ) 2017/6/3(土) 午後 8:42

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