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メリゴ式I/Qミキサーを作ってSDR Studyで7MHzを聴いてみる

投稿日 2021/01/08

今回はI/Qミキサー(直交ミキサー)を作って、SDR Studyで7MHzのCWとSSBを受信してみました。

 

I/Qミキサーは音声信号などで変調された受信電波のキャリア周波数と同じ周波数のローカル・オシレーターで、そのSIN波とCOS波を用意し、それらによって半導体スイッチなどで受信信号をスイッチングするものです。最後にフィルターを通して音声信号(455KHzや10.7MHzなどの中間周波数に変換する場合もある)を取り出します。このときI信号と、それに直交(90度位相の違う)したQ信号が取り出せます。

 

ローカル・オシレーターは方形波でもよいので原発振をフリップフロップなどに通して90度位相の違う信号を獲ることができますので回路が簡単です。フリップフロップによって原発振が1/4に分周されるので4倍の周波数の水晶発振器などを原発振として用意する必要があります。アマチュアバンドの7.060MHzをベースバンド(オーディオ周波数)のI/Q信号に変換する場合はその4倍の28.240MHzの原発振が必要となります。今回は7MHzのCWとSSBを聴いてみたいので、28.03200MHz(7.006MHz用)と28.24000MHz(7.060MHz用)のクリスタル・オシレーターを用意しました。

今回の回路は直接ベースバンドに変換していますが、ミックス後の周波数は何でもよく、たとえば455KHzの中間周波数を入力できるような広帯域受信機を所有している場合は(Q信号を使うかどうかは別として) 455KHzに変換すればよいわけです。VHFなどの高い周波数であれば10.7MHzなどでも構いません。今回はI/Q信号以降の検波/復調処理にパソコンのソフトウェア(SdrStudy)を使ったのでベースバンドに変換しています。SDR Studyで検波等の信号処理をすべて行うので、パソコンにこの簡単なI/Qミキサーを取り付けるだけで受信機になってしまいます。ただし、原発振が固定であれば受信周波数も固定ですから、中心からサンプリングの範囲しか受信できません。連続的に周波数を変更するためにはひと工夫必要です。

ミキサーの部分は作るのが難しいDBMではなく、アナログ半導体スイッチ(4066)を使用しています。フィルターはOPアンプを使用した一般的なアクティブ・フィルターです。

SDR_Study_IQMixer1.jpg

メリゴ式I/Qミキサーの回路

RFワールド No.22 SDR Studyに記載されているもの

今回作成したメリゴ式のI/Qミキサーの回路はRFワールド No.22のSDR Studyの章に記載されています。また、この回路は以前CQ HAM Radioの2006年12月号で基板付きで照会されているようです。当局は残念ながら所有していませんので、自分で配線しました。TTL ICとOP AMPの簡単な回路ですから自作は容易です。

小さな蛇の目基板に配線しました。RF AMPは無く直接アンテナをつなぎます。出力はオーディオ信号ですのでPCのオーディオ・ジャック(ラインまたはマイク端子)につなぎます。原発振は28.240MHzのXTALの場合、受信周波数はその4分の1の7.060MHz固定です。28.0320MHzの場合は7.008MHz固定です。XTALは正確にはXTALではなくエプソントヨコムのクリスタルオシレータSG-8002です。周波数を指定すればこのオシレータで作ってくれる業者があります。1個でも作ってくれます。

 

回路はクリスタル・オシレータの発振出力をCMOS TTLのD F/F 74HC74に通して90度位相のずれた信号を作ります。SINとCOS信号です。それらで2つのアナログスイッチでアンテナからの信号をスイッチングします。スイッチングの結果I/Q信号が分離されて出てくるので、OP AMPのアナログ・フィルターに通して出力します。この出力は受信波に変調されているベースバンド信号のI成分とQ成分を分離した信号ですので、これをPCに入力して信号処理をすることによりAMやSSBの信号を復調することができます。(原理はRFワールド No.22を参照願います)

​今回は受信する7.060MHzはLSBによる交信が行われている周波数帯です。7.008MHzはCWの交信が行われている周波数帯です。それらの復調処理はSDRの真骨頂ですのでSDR Studyで行ってもらうことにします。

ダイレクトコンバージョン01.jpg

シリコンラボラトリーズのSDR AM/FMラジオIC Si473Xのブロック図

Si473Xのデータシートより抜粋

SDR受信機の基本構成がよくわかる

復調処理はDSPの中でやっている

ところで、今回のような一連の動作をワンチップに組み込んだSDRラジオICがあります。シリコンラボラトリーズのSi473Xです。今回作成したメリゴ式I/Qミキサーはこの図の左半分に相当します。ただしこの図にあるLNA(Low Noise Amp)は今回ありません。PC上で動くSDR Studyはこの図の右半分、つまりADコンバータ、DSP(信号処理)、DAコンバーターの部分に相当します。このように最近はワンチップで性能の良いSDRラジオが作れてしまうのですが、これではSDRのための信号処理の勉強にはなりません。その点SDR Studyは各信号処理の要所要所を分離して効果を試すことができますし、ソースコードも公開されていますので勉強にはうってつけです。

​関連記事:PSoC3 + Si4735でデジタルAM/FMラジオ

SDR_Study_IQMixer2.jpg

メリゴ式I/Qミキサーを蛇の目基板の切れ端に組んでみた

USBソケットは電源(5V)の供給のみ

左端がクリスタルオシレータ、中央が74HC74、右が4066、最右がOP AMPの2068

クリスタルオシレータのソケットは2つ用意し、異なる周波数を

ジャンパーで切り替えられるようにしてある

​BNCはアンテナ

上は、メリゴ式I/Qミキサーの実装です。手のひらに乗る小型サイズです。前述のようにRFアンプは組み込んでいません。アンテナ直結です。ステレオジャックからケーブルでPCのオーディオジャックとつなぎます。PCではSDR Studyを起動しておきます。

CWの受信例

SSB(LSB)の受信例

SDR Studyの内部処理、操作等の詳しいことはRFワールド No.22を参照してください。このSDR Studyはうまくできています。入力切替、第1ミクサ、フィルタ、第2ミクサ、検波、変調のブロックで構成されていてそれぞれ好みに設定できます。今回入力切替は外部からですのでライン入力を選びます。内部発振器やファイルの信号を入力したりノイズを入力にしたりもできます。第1ミクサをONにして局発周波数とミックスします。局発の周波数はスライダーを動かすと可変できます。いわゆるVFOです。スライダーは無線機のメインダイヤルです。中間周波に変換したらフィルターを通します。フィルターはタップ数を変えたり、帯域を調整できます。動画の途中でフィルターをONしています。CWの方の500Hzのフィルターは効果が分かりやすいと思います。第2ミクサはBFOです。ここでAGCをON/OFFできます。またサイドトーン周波数が選べます。検波はSSBを選んでおきます。変調はOFFとします。

以上のように高度なスペックを要求しなければSDRは簡単に、ローコストで実現できることが分かります。しかもSDR内部での信号処理を自由に変更することにより自分独自の無線機が作れそうです。今回はフロントエンド部はメリゴ式I/Qミキサーという簡単なものでしたが、SDR関連の進歩は急速で、高速ADCを使用したダイレクトサンプリングのフロントエンドや、GNU Radio、FPGAやARMなどの高速CPUを使用したSDRなど様々な方式や回路が開発され、しかもオープンソースで、コスト的にもアマチュアの手の届く範囲にあります。出来合いのSDR無線機を使うだけでなく、このようなもので好奇心の目を内部に向けてみたいものです。

(JF1VRR)

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