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FM検波に使われた真空管

投稿日 2016/10/30

FMラジオや旧アナログテレビの周波数弁別器(ディスクリミネーター)、いわゆるFM検波回路で使われた真空管(MT管)には、いくつかの種類があります。

 

6AL5 (カソード独立)双二極管

6BN8 (カソード独立)双二極・高μ電圧増幅三極複合管

6T8 トリプル二極、高μ電圧増幅三極複合管

6BN6 ゲーテッドビーム管

6DT6 デュアルグリッド・シャープカットオフ五極管

GE製の6BN6 ゲーテッドビーム管

FM検波用の特殊構造管

左から6AL5(3AL5)、6BN8、6T8、6BN6、6DT6A

 

 

 

 

6AL5

 

6AL5は小型でかわいい双二極管です。レシオ検波用に作られたような球です。ヒーターバリエーションは、3AL5、12AL5があります。

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6AL5使用のFM音声検波回路

白黒テレビ ゼネラル 14T-800

ラジオ技術全書「テレビ受像機の基礎」より

 

上図は6AL5使用の典型的なレシオ検波回路です。映像増幅管のプレートから4.5Mc(Hz)の音声信号を取り出し、6AU6で一段増幅しています。6AL5は双二極管なので増幅能力がないため、12AU7の一方の三極部で電圧増幅しています。

 

 

 

6BN8

 

6BN8 双二極・三極複合管は6AL5に高μの三極管を合わせたような複合管です。双二極部でレシオ検波を行い、取り出した信号の低周波増幅もこの一本でやってしまえます。(同じ構造、同じピン配置の球に6BJ8があります。)

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6BN8使用のFM音声検波回路

白黒テレビ 日立FMB-310G

ラジオ技術全書「テレビの調整と故障修理」より

 

上図6BN8使用の回路も標準的なFM不平衡型レシオ検波回路です。6BN8は双二極部と電圧増幅用三極部の複合管なので、上図のように検波と増幅を一本でこなします。このあとはスピーカーを鳴らすための電力増幅段です。

 

関連記事: FMレシオ検波のシミュレーション(EF-850)

 

 

6T8

 

6T8 トリプル二極・三極複合管は独立した二極部3つに、三極部をもつ特殊な構成の球です。ヒーターバリエーションは5T8、19T8があります。また、同じ構成、同じピン配置の球に6R8、19C8があります。二極部が3つありますが、うちひとつは完全独立で、のこり2つの二極部は三極部とカソードが共通です。このため検波の一方と、三極部はカソードを接地置した回路が使われています。

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6T8使用のFM検波回路

カラーテレビ RCA 700シリーズ

誠文堂新光社 「無線と実験 501回路集」より

 

 

 

6BN6

 

6BN6 ゲーテッドビーム管は周波数変調の復調用として作られた専用の特殊管です。1949年に発表された比較的新しい真空管です。この球は振幅制限と検波、増幅の三役を同時にこなせる優れ者です。第一ゲートは入力のゲートとなり、入力が負でプレート電流が遮断され、わずかに正でが飽和するリミッター作用があります。第二ゲートは外部の同調回路(クオドラチュア・コイル)に接続され、第二ゲートを通過した電流によって、同調回路に90度位相がずれた電圧が生じ、開閉が遅れることによりプレート電流の幅が変化します。この周波数によって幅が変化するパルス的なプレート電流をフィルターに通せば周波数変位に対応した振幅の変化が得られるというものです。パルス幅変調(PWM)をオーディオ信号に戻す原理と同じです。6BN6のヒーターバリエーションには3BN6、4BN6、12BN6があります。6KS6も同等管です。

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6BN6ゲーテッドビーム管使用のFM検波回路

一見単なる増幅段に見えるが、G3につながっているクオドラチュア・コイルと、

プレートのRCフィルタが重要

白黒テレビ ビクター21T-465

ラジオ技術全書「テレビ受像機の基礎」より

 

 

 

6DT6(A)

 

6DT6は、シャープカットオフ五極管ですが、FM検波に使われる制御格子を二つもった特殊な五極管です。シャープカットオフのコントロールグリッドを2つもっています(G1, G3)。回路の原理はゲーテッドビーム管と類似と思われますが、ゲーテッドビーム管が小信号性能と増幅度の点で不足があったようですが、6DT6はその点良好なようです。

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6DT6使用のFM検波回路

カラーテレビ RCA 14インチポータブルテレビ

誠文堂新光社 「無線と実験 501回路集」より

 

なお、コンパクトロンの6BF11、6AD11 複五極複合管に封入されている一方の五極管は6DT6と同等です。もう一方の五極管は電力増幅用です。これらのコンパクトロンを使えばFM検波と、スピーカーを鳴らすための電力増幅を1本の球で行うことができます。 

 

初期には高価だった半導体ダイオードも安くなり6AL5等に代わってダイオードを使用した検波も採用され始めたようです。ただ、6AL5や半導体ダイオードでの検波は増幅能力がないため、どうしても電力増幅段をドライブするための電圧増幅段が必要となります。その点、6BN8はそれを1本でこなせました。6BN6ゲーテッドビーム管は若干増幅能力に不足は感じるものの、直接電力増幅段(4MP-12や6BK5など)をドライブできたようです。6DT6に至っては増幅能力は十分だったようで、6AQ5や6BQ5を直接ドライブしているテレビが見受けられます。

 

 

 

 

 

 

(JF1VRR)

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