五極管の特性をシミュレーションする

投稿日 2010/12/22

五極管の性質を電子回路シミュレータTINA7で調べてみました。

 

以下の回路が計測回路です。計測対象は真空管 6U8 三極五極複合管の五極ユニットです。

6U8P_EP_IP計測回路.jpg

計測回路 6U8

 

まず五極管のプレート電圧(以下Ep)とスクリーングリッド電圧(以下Esg)がプレート電流(以下Ip)にどのように影響するか,つまりEg-Ip特性を調べてみました。

 

EpとEsgをコントロールオブジェクトに設定します。
Epは100から300Vの5点。つまり50Vステップとします。
Esgは110から210Vの3点。こちらも50Vステップとします。
Egは-10から0Vまで1Vステップで変化するよう設定し、DC解析のDC伝達特性解析を起動します。
こうして描いたのが下のグラフです。(このグラフはIpのみです)

 

Epが100VでEsgが110VのときのEg -10から0Vの各Ip
Epが100VでEsgが160VのときのEg -10から0Vの各Ip
Epが100VでEsgが210VのときのEg -10から0Vの各Ip
Epが150VでEsgが110VのときのEg -10から0Vの各Ip


Epが300VでEsgが210VのときのEg -10から0Vの各Ip
という具合に計測して、ひとつのグラフに描画しています。

6U8P_EG_IP.jpg

6U8 五極ユニットのEg-Ip特性
このグラフは、Ep 300, 250, 200,150,100V
Esg(スクリーングリッド電圧)が110V、160V、210Vの組み合わせで
Eg(コントロールグリッド電圧)を-10から0Vに変化させた場合の
Ip(プレート電流)の値をシミュレーションしたものです。
(TINA7で描画)

 

このグラフで分かるように、

 

Eg-Ip特性を支配するのはスクリーングリッド電圧(Esg)であることがわかります。

 

Esgが一定だと、Epを変化させても、各EgにおけるIpはほとんど変化しませんが、

 

Esgを110V, 160V, 210Vと変えて計測するとIpは大きく変化します。

 

これは五極管の場合、プレート電圧よりはスクリーングリッド電圧のほうが動作特性に支配的な影響があると言えます。

 

スクリーングリッドはプレートよりもカソードに近いため、スクリーングリッド印加されるEsgのみが熱電子の誘引に関与しており、プレートはスクリーングリッドを通過した熱電子のみを受け取っていると考えられます。実際、Esgが0Vの場合、いくらEpを印加しても、まったくと言っていいほどIpは流れません。

 

また、五極管の場合、スクリーングリッドによって熱電子が誘引されるため、低いEpでも多くのIpが流れます。つまり比較的低いEpで大きな増幅度が得られます。これに対して三極管はスクリーングリッドが無いため、一般的に高いEpを印加する必要があります。

 

以上から、Esgを変化させた場合、その五極管がどのように振舞うかを知っておいたほうがよさそうです。Epを固定しておいて、さまざまなEsgのEg-Ip特性があれば、アンプの設計に役立てられそうです。そこで描いてみたのが下のグラフです。

6U8P_EG_IP_EP固定.jpg

6U8 五極ユニットのEg-IP特性
このグラフは、Epを250に固定し
Esgが90V、110V ....250Vにおける
Egを-10から0Vに変化させた場合の
Ipの値をシミュレーションしたものです。
(TINA7で描画)


 

このグラフはEpを250Vに固定し、Esgを細かく(20Vステップで)変えて計測したものです。

 

このグラフ、つまりIpはプレート電圧を200Vや300Vにしてもほとんど変化しません。つまりIpはEsgによって決まっており、Epを変化させてもにほとんど影響がありません。


 

次に五極管のEp-Ip特性とEp-Isg特性を調べてみました。

 

上の回路で、こんどはEgとEsgをコントロールオブジェクトに設定し、Epを変化させてIpとIsgを計測します。

 

そのようにして描いたのが下のグラフです。

6U8_TINA_EP_IP_EP_ISG_GRAPH.jpg

6U8 五極ユニットのEp-IP, Ep-Isg特性
このグラフは、Esgが110Vと160V
Egが0,-1,-2Vの場合において
Epが0から300Vに変化した場合のIpと
Isgの値をシミュレーションしたものです。
(TINA7で描画)

 

まずEp-Ip特性ですが、これは五極管の特性図としてよく見るグラフです。

 

五極管はこのように、EsgとEpの印加によって急速にIpが流れ始め、Ep 50V付近のニーポイント(特性の肩)を通過後、Ep 約100V付近で、それ以上Ipがあまり増加しなくなり飽和します。

 

Ipがどの程度流れるか(熱電子がどの程度プレートに達するか)は、EgとEsgによって決まります。

 

EgによってIpが増減するのは三極管と同じですが、五極管はEsgがIpを決定付けます。つまりEsgが引き込んだ熱電子の量によってIpが決まるということです。プレートはEsgが引き込んだ熱電子を受け取るのみです。このためEpに関係なくEsgによってIpの飽和が決まります。

 

このことは、五極管の場合Esgを安定にしないと、Ipがふらつき思わぬ変調がかかったり、ハムに悩まされることを示しています。

 

次にEp-Isg特性です。スクリーングリッドにはどのように電流(Isg)が流れるのでしょうか。

 

Isgは、Ipとは逆に、Ipが増えるにしたがって、急激に減少していき、Ipが飽和するとIsgもほぼ一定値に落ち着きます。

 

これはスクリーングリッドはプレートよりもカソードに近いため、より低い電圧で熱電子を引きつけますが、プレートは面積の多い板状をしているのに対して、スクリーングリッド細く粗い線で構成されている(すき間だらけ)なので、Epが高くなるにつれ、熱電子がスクリーングリッドを通過してプレートに飛んでいくことを示しています。

 

Isg: Eg 0V Esg 160Vのグラフを見ると、

 

Epが0Vのとき、すでにスクリーングリッドにはIsgが20mAも流れています。つまりこの時点では熱電子はすべてIsgとなっています。

 

しかし、Epを少し上げていくとIsgが急速に低下し、変わりにIpが急速に流れ始めます。

 

これは、細い線のスクリーングリッドに対し、圧倒的に面積の広いプレートに電圧が印加されると、
スクリーングリッドが引き寄せた熱電子が、スクリーングリッドを通過して、プレートに引き寄せられる度合いが高いことを示しています。

 

以上から、スクリーングリッドの熱電子誘引能力、スクリーングリッドとプレートの距離、プレートの面積、プレート電圧など、さまざまな要因がその五極管の特性を決めていると言えそうです。


 

実測データは、5U8 (6U8) 五極ユニットの特性を計測するをご覧ください。





 

(JF1VRR)