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写真はいずれも八ヶ岳の赤岩ノ頭を少し硫黄岳寄りに登ったところからの写真です。右は山と渓谷社 アルパイン・ガイド20 「八ヶ岳」の表紙を飾る赤岩ノ頭付近です。左の写真は少し角度が違いますが現在(2019年10月06日)の赤岩ノ頭付近です。

このガイドブックは昭和36年初版発行です。1961年ですから58年以上前の写真と言えます。したがって、この二つの写真の差は赤岩ノ頭付近の58年を経た姿です。私もここに登ったのは35年以上も前のことで、久しぶりでした。

奥に見えている山は八ヶ岳の阿弥陀岳(標高2807m)です。手前右端の這松で覆われたピークが赤岩ノ頭です。赤岩ノ頭で印象深いのは、手前の白いザレ場があることです。花崗岩の正土のような砂状のザレ場です。白いので遠くからも目立ちますが、下の赤岳鉱泉から約400mの高度差を登って来てこの白いザレ場を見ると、赤岩ノ頭に登って来たと実感します。58年以上を経過した同じ場所の違いが分かるでしょうか。

写真を見て分かるように、あまり変わっていません。これは登山者のマナーがよく、這松を踏み荒らしたりしないことによるものだと思います。しいて言えば、左の現在の写真で人が集まっているところが下から登りついたところですが、その辺りの這松が禿げたくらいでしょうか。また手前のザレ場の見えている三本の溝が少し深くなっています。これは自然の雨などによるものですが、58年以上経ってもあまり侵食されていないことがわかります。阿弥陀岳も斜面崩壊などが無く安泰。こういう景色を見るとホッとします。

ところで、余計なことですが、このガイドブックの編集者は表紙の写真になぜここを選んだのでしょうか。八ヶ岳には主峰「赤岳」が聳えており、言わずもがな最も人気ですから赤岳を表紙にするのが一般的です。実際そのようなガイドブックなどを見かけます。それが二番手の阿弥陀岳と、どちらかというと通過点としか思えない赤岩ノ頭をどうして採用したのでしょうか。疑問が残ります。はじめてこのガイドブックを手にした人は、しばらく写真の阿弥陀岳を赤岳と思い込むでしょう。

​私が思うには、おそらく編集者にとっては写真右下に写りこんでいる6,7名の登山パーティーに主眼があると考えます。八ヶ岳は規模こそアルプスにかなわないが標高は3000m近い高山帯で、アクセスの便もよく手軽に楽しめる山。このことが大学の山岳部などに初級の山として人気がありました。今は山岳パーティーはあまり見かけなくなって個人の登山が増えましたが、ガイドブック刊行の頃は団体登山がよく行われていたのです。そんな味が出ている表紙写真と思います。

(熊五郎)

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