山の名著 「山紫水明」- 桐生の山 -                                                           投稿日 2018年02年18日

この本のタイトルとして使われている山紫水明(さんしすいめい)は、群馬県桐生市(きりゅうし)を取り囲む山々と、そこに流れる渡良瀬川を中心とした川を一言であらわしたもので、命名に著者の郷土愛が感じられる。

 

どのような町でも、多かれ少なかれ山が見え、そして川が流れている。そこで山は青く、水はキラキラ輝いていると感じることは、そこに住む者にとって至上の喜びである。「山紫水明」はそれを表現した熟語である。

 

私は、桐生市からさして遠くない同じ群馬県の町に住んでいるので、桐生の山にはよく登っている。朝日沢山(仙人ヶ岳)のすがすがしさや、八王子丘陵の茶臼山から眺めた桐生の街ときらきら輝く渡良瀬川の流れは正に山紫水明と表現するにふさわしいと思う。

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みやま文庫217 「山紫水明」- 桐生の山 - 増田 宏著

平成27年1月発行

 

この「山紫水明」- 桐生の山 - は群馬の歴史、文化、自然などを多く取り上げているみやま文庫から発行され、著者は増田 宏氏である。

 

内容は、以下の章からなっている。

 

渡良瀬東岸(の山々)

八王子丘陵

赤城山

袈裟丸山

渡良瀬西岸(の山々)

 

私なりに桐生市について勉強してみた。

 

桐生市は群馬県の東部に位置する市で、渡良瀬川を挟んで関東平野側と山域側に別れるが、山域側は渡良瀬川の支流である桐生川の両岸に発達した街である。八王子丘陵は渡良瀬川を挟んで関東平野側(南側)にあるが、その他の山のほとんどは、北側の桐生川の流域にある。桐生川流域の山域は、北東方向に足尾山地に食い込んでおり、このため桐生市の面積の多くは山域で占められている。また、編入された新里村、黒保根村の面積が、旧来の面積と同じくらいの面積の飛び地となっており、編入によって市の面積がほぼ倍になったと言える。飛び地の間はみどり市となっている。

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八王子丘陵からの桐生市と桐生市の山々

 

 

主な山々を拾っていくと、旧来の桐生市では、八王子丘陵茶臼山、吾妻山、大形山、鳴神山、残馬山、三境山、根本山、朝日沢山(仙人ヶ岳)、仙ヶ沢(前仙人)などがある。()は栃木県側からの呼称。

 

編入された飛び地には、赤城山塊黒檜山、長七郎山、栗生山などがある。

 

「山紫水明」- 桐生の山 - は、当然ながら桐生市に属する山のみを取り上げているため、赤城山はその東面のみ、渡良瀬川の西岸面、足尾山地は桐生川流域のみ。仙人ヶ岳の山域は東側のみ、そして八王子丘陵北面のみとなっている。ただし、旧桐生広域圏として、間のみどり市の領域も含めているため、渡良瀬川の西岸面の山として袈裟丸山や地蔵岳も含め、また一部隣接する地域の山も含まれている。つまり足尾山地の南西の一角と、赤城山塊東面をカバーしていると考えればよい。

 

この本の特徴は単なる低山ガイドブックではない点である。全体的に簡単な山の紹介と登山道の説明にとどめているため、この本をガイドブックとして登るには、はなはだ無理がある。それよりは、同時に含まれている地質や歴史などの情報をよく反芻して、桐生の山を知るために利用するのが本来の価値となるだろう。ネットを探せば桐生の山もさまざまに歩かれているので、詳細はそれらに頼るとしても、この本は桐生の山に入るための大事な予備知識を提供してくれる。

 

説明には山域の概略図が添えられているが、必ずしも説明に出てくる地名や石碑などの位置が示されてなかったり、明確に記載されていなかったりする点は、すこしストレスとなる。地図を詳細化し、説明に出てくる地名などは必ず地図に示されているとよいが、その点は惜しまれる。

 

ところで、低山に登る場合よく苦労する点は、小さなピークによくある山名板である。その山名を信じていいのか、また、誰かが勝手に命名して掛けたものか。地図に載っていない山名は疑わしいものである。山名を適当につけて山名板を掛け、それを信じた人がネットに投稿するのを、ひっそり楽しむ人もいるだろうし、故意でないにしても、山名板を違ったピークに掛けて、人を惑わす場合もある。安易な気持ちでやってはいけない行為である。しかし、通過したルートなどの説明のためには山名は重宝する。無ければPxxxなどと標高で示すしかない。

 

このような本が発行されると、地元の最も信頼のおける情報として取り扱って問題はないと思う。しかし、山名はともかくとして、山域や稜線、尾根の名称については、なかなか難しい問題で、本書も苦労しているようだ。当然、古くからの呼称が有力な手掛かりで、本書もそれに頼っているが、無ければ説明上欲しい場所の名称は新たな名付けを試みるしかない。とくにこの本のように、限られた地域を取り上げるに当たっては、たとえば、桐生川東岸の山を足尾山地と言ってしまうわけにはいかない。あまりにも大雑把すぎるし、足尾山地があらわす山域が大きすぎる。この本で出てくる桐生山稜や野峰山稜などの命名は、はたしてそう呼んでよいかは私にはわからないが、山域の説明には重宝するだろう。

 

その山域に詳しい著者のような方がこのような本を顕わしてくれるということは、非常に貴重なことである。少なくともこの本を読めば桐生の山域がよく理解でき、予備知識を増やして入山できる。桐生の山によく登るものとして感謝の気持ちを表したい。

 

渡良瀬東岸の山域において、新旧様々な登路と峠の存在が示されている山々(他の山域は省略)

 

根本山

氷室山

三境山

残馬山

大萱山、地蔵岳、石倉山

白浜山

熊鷹山

丸岩岳

野峰

鳴神山

三峰山

城山(柄杓山)

吾妻山

丸山

仙人ヶ岳(朝日沢山、仙ヶ沢)

雷電山

観音山

御嶽山

高戸山

など

 

 

 

 

 

 

(熊五郎)

コメント(2)

  • 山紫水明、白砂青松などは個別の場所でなく、日本の自然の美しさを表すものだと思っていました。 (agewisdom) 2018/2/18(日) 午後 0:12

  • > agewisdomさん その通りだと思います。日本の山紫水明を多く残しておきたいものですね。(熊五郎) 2018/2/18(日) 午後 0:23