top of page

檥峠に思う

投稿日 2018年01月23日

先日、山友と奥武蔵の山を歩いた。

 

南岸低気圧が近づく手前。まだその影響のない好日であった。

 

奥武蔵の山々には奥武蔵グリーンラインという林道が、稜線にそって走っていて、なるべくなら林道を歩きたくない私にとっては、どこか避けたい気持ちもあって、これまで歩いていなかった山域だった。

 

そのとおり、稜線に出れば山道がたびたび林道に降りる。そこにはけたたましいバイクなどが走っていて、小鳥の声はかき消されてしまう。最近、車は静かになった。騒音を出すのは軽トラックくらいだろうか。

 

しかし、歩いてみればそれは私の好きな山であるには違いなかった。

20180121_関八州見晴台10.jpg

そんな奥武蔵の林道の脇に檥峠(ぶなとうげ)という標柱が建っている。その檥峠からは、椚平という山里へ通ずる林道が降りているが、どのような峠なのかは知らない。

 

私が気になったのは峠のあり方ではなく、名前の方だった。

 

檥峠。ぶなとうげと聞くと樹木のブナを誰しも思い出す。しかしこのぶなは、あの樹木のブナ(橅)であろうか。なにか他のものの事ではないかと、考え巡らせてしまう。木のブナなら橅を当てればいいが、どうして檥なのか。檥という字は、「目印となる立木」という説がネットにあるが、それだとブナには関係ないのだろうか。

 

というのは、埼玉県の奥武蔵のこの山域は600m前後の山々であり、この地域では1000mを越すあたりが生息域のブナにとっては低すぎるからだ。あまりよく観察していないが、概ねコナラなどの落葉樹や、アセビなどが混じる自然林で、ブナが混ざるとは思えない。ぶな峠というほどブナがあるのだろうか。という疑念が湧いてくるのだ。

20180121_関八州見晴台11.jpg

ところで、檥峠には標柱の近くに石田波郷(いしだはきょう)の句碑がある。

 

   「万緑を顧みるべし山毛欅峠」

 

山毛欅は分解すると毛のある山ケヤキになるが、これもブナと読むらしい。

 

波郷は昭和十八年にここを訪れ峠の展望に魅了されてこの句を詠んだらしい。彼は眺めを楽しみつつも、まじかにブナを見たのだろうか。その頃はまだ檥が使われてなかったのだろうか。音だけから山毛欅を当てたのだろうか。

 

そうこう考えているうちに、またブナのあるような山に登ってみたくなった。

 

ブナは建材としては地位が低いらしいが、山に登るものにとっては、無くてはならない木であると思う。深い山ではブナの幹元で休み、ブナの下で水を汲み、ブナから漏れる陽に心癒されるのである。

20180121_関八州見晴台12.jpg

「深山のぶなの足元流れの音」

 

「きらきらとブナの落とす陽にふと我にかえり」

 

「つめたきブナの肌に耳そっとよせてみる」

 

「ぶな達の間に立って永年の会話聞く」

 

 

 

 

(熊五郎)

 

コメント(2)

  • 檥は「ふな」船とかかわる文字で「船をギして待つ」木製の舟を正しく整える意味だそうです。そこから「船を出す用意をすること」になったといわれています。さて船出とは関係なさそうなところですねえ。 (agewisdom) 2018/1/23(火) 午後 2:24

  • > agewisdomさん そうですね。ご指摘の意味ではここにそぐわない感じです。地名は音が先で、漢字は適当に当てられることがあるので、むずかしいですね。(熊五郎) 2018/1/23(火) 午後 2:46

bottom of page