目標心拍数とコース定数

投稿日 2017年11月15日

 

有名山岳雑誌の少し前の号*に「山の新常識」と題して、山に登る場合のさまざまなテーマの現代流の考え方がとり上げられた。

 

大きくは「安全」「カラダ」「道具」「登山者」という分け方で、

 

「安全」は、山岳遭難おける高齢化、知識不足、若者の場合に深刻になる傾向、ネット情報の扱い、登山計画のネット提出、野生動物対策などを指摘。

 

「カラダ」については、体力の客観的な把握の必要性、心拍数などの数値による把握・管理、メッツによる体力やコース定数などの数値化、カラダづくりの考え方、病気・加齢との向きあい方、トレーニングなど。

 

「道具」については、道具の細分化の傾向、軽量化、デジタルガジェットなど

 

「登山者」については、イマドキ登山者の特性

 

などが解説されている。

半月山への登りにて.jpg

まとめると、山の新常識は、

 

日頃からトレーニングを欠かさず、

加齢や持病に伴う限界を知り、

ネット情報を安易に信じず、

十分な山の知識と情報を元に計画し、

しかるべき機関に入山を届け出(ネット活用)、

辿るコースに必要な体力(コース定数)や技術力(難易度)を理解しておき、

なるべく適切で軽量な道具を使用し、

野生動物に対応でき、

自分の体の状態(心拍数など)を把握しながら、

上限(目標心拍数)を超えないように行動し、

GPSなどの文明の利器を有効に活用しながら、

できれば信頼できる友とともに登る。

 

といったところだろうか。

 

この中で「目標心拍数」と、コースに必要な体力の数値化に関して、「コース定数」(ルート定数)というものがとり上げられている。

 

目標心拍数

 

山では心拍数や血圧などを計測しながら登りたいものだが、CPX(心肺運動負荷試験)を行うときのような、さまざまな計測器を体に付けて登るわけにもいかない。そこで、登山の時に最低限必要なことを病院のリハビリの先生に聞いてみると、心拍数の監視だけで大丈夫だということだ。心拍数だけならフィールドで計測できるグッズが増えてきた。腕時計のような形もある。

IMG_8428.jpg

腕時計型の心拍計

時計、歩数計、血圧、睡眠質機能もある

 

 

では、どの位の心拍数なら大丈夫なのか?おそらく心臓がバクバクいうような運動を長時間続けてよいわけはないだろう。

 

自分にどの位の心肺能力があるかはCPXを受けて実測するしかないが、計算で簡易に求める方法が載っていた。

 

最高心拍数 = 208 - (0.7 x 年齢)

 

運動強度 = 登山の場合75%前後(0.75)

 

目標心拍数(回/分) = 最高心拍数 x 運動強度(%)

 

つまり、登山における目標心拍数 = (208 - (0.7 x 年齢)) x 0.75となる。

 

20歳なら (208 - (0.7 x 20)) = 194  194 x 0.75 = 145.5

60歳なら (208 - (0.7 x 60)) = 166  166 x 0.75 = 124.5

 

最高心拍数は全力運動をしたときの心拍数の上限だ。登山の運動強度0.75については根拠はわからないが、全力運動を1とした場合の登山の場合の割合だ。きついスポーツほど%が大きいということになる。

 

高齢になってくると心拍数125拍/分位を上限として行動した方がよさそうだ。登山するときはいつもこの目標心拍数を越えない範囲で行動すれば、とりあえず安心といったところだろう。

 

リハビリの先生によると絶対というものではなく、短時間ならば越えても問題は無いとのことだった。つまり、あまりシビアに考える必要はないということだろう。いままで経験的に感じてやっていたことだとは思うが、長い急登などでは、心拍数が目標心拍数を越えないように監視し、もし越えそうだったら落ち着くまで休むというふうにすればよい。

 

数値で判断するということは、日ごろのトレーニングの効果や、また逆に加齢の影響などが具体的に把握できるのもメリットと言えそうだ。

 

 

コース定数

 

必要な体力は普通、個別の運動に対して「メッツ」という単位で扱われる。サッカーは7メッツ、水泳は8メッツ、速目のランニング10メッツというように。実際、トレーニングジムなどのランニングマシンなどでは、速度や距離に応じてメッツが自動的に計算されて表示されるので、現在何メッツの運動をしているかが分かる。

 

では登山は何メッツかと言われると、山やコースによってさまざまである。そこで考え出されたのが「コース定数」のようだ。コースの行動時間、歩行距離、高低差から以下の様に求める。

 

コース定数 = 1.8 x 行動時間(h) 

+ (0.3 x 歩行距離(km))

+ (10.0 x 登りの累積標高差(km))

+ (0.6 x 下りの累積標高差(km))

 

ここで、行動時間は休憩時間を含まない歩行している時間。歩行距離はスタートからゴールまでの沿い面距離。登りの累積標高差は全ルートにおける登り高低差の累積。つまり登った高さの総和。下りの累積標高差とは、全ルートにおける下り累積高低差。つまり下った高さの総和。と解釈した。

 

標高500mの登山口から1600mの山頂に登るとすると、単純に考えれば1100mの標高差があるが、実際にはアップダウンがある。

 

たとえば、標高500mから標高1600mの山頂に登り、別ルートで標高400mまで降りてくるとすると、

 

^は登り

vは下り

 

500 -> ^500 v100 ^400 v100 ^400 山頂 v500 ^100 v400 ^100 v500 -> 400

 

こんな感じでアップダウンがあるとする。ここで登り(^)の累積標高差は1500m(1.5km)。下り(v)の累積標高差は1600m(1.6km)となる。

 

行動時間 8時間、歩行距離 15km、登り累積高低差1.5km、下り累積標高差1.6kmとして、計算してみると、

 

コース定数 = 1.8 x 8.0 + (0.3 x 15.0) + (10.0 x 1.5) + (0.6 x 1.6) = 33.3

 

となる。

 

ところで、計算に必要な累積標高差はちょっと得にくい面がある。

 

地図を見て等高線を読みながら、計算していくのは骨が折れるのだ。そこで私の場合はカシミール3Dを使用した。カシミール3Dには、ある地点間の断面表示ができるようになっている。この機能を使えば尾根をスパッと縦に切って横から見られるようになっている。細かい区間区間の高度差も出せるので、登りの部分や下りの部分だけの高低差を累積できる。(しかしやって見ると結構面倒くさい)

 

歩行距離は登山地図には書かれていればよいが、ない場合がある。直線距離ではなく沿い面距離なので、地図に定規を当てても、計算は面倒だ。そこでこれもカシミール3Dの断面表示機能のお世話になる。

 

行動時間は登山地図などを参考にするしかない。まだ登っていない山なら自分の行動時間はわからないので、何かを参考にするしかない。行動時間(そのコースの所要時間)の基準は、何歳くらいの何人くらいのパーティーの場合などと記載されているので、自分と異なる点、とくに年齢については、上の計算式に係数でも掛けて自分の納得できるものにしていくしかないだろう。

 

コース定数については、スポーツ生命科学の位置テーマとして研究されているのだろうか、ネットでは以下が参考になる。

 

http://www.nifs-k.ac.jp/property/researchers/2-4yamamoto.pdf

 

この文書では100名山のコース定数が、ひとつのコースを取り上げて計算したものが記載されている。

 

たとえば、雲取山 鴨沢から三条の湯コースで52。谷川岳 天神平からの往復 18 甲斐駒ケ岳 北沢峠からの往復 29 などとなっている。

 

しかし、例えば谷川岳に西黒尾根から登った場合とか、甲斐駒ヶ岳に黒砥尾根から登った場合など、コース定数がいくつになるかは計算してみないとわからない。登山者がいちいち計算してから登るとも思えないから、片手落ちという面もある。要は、このようなコース定数は客観的な数値で、これから登るコースの必要体力を把握してから登ることは大事なことである。あまり絶対値にこだわる必要は無く、自分自身の比較対象として、相対的な感覚を数値で身につけていけばよいということだろう。

 

 

以上から、

 

たとえば60歳ならば目標心拍数を120回/分くらいとして、急坂などで心拍計を見ながら登り、もし120を長く越えるようならば休み休み登るようにするという感じ。なるべく有酸素運動の範囲で。

 

コース定数については、計画時に予め計算、またはガイドブックやネットで参考値を得ておき、例えば30とした場合、実際に登って30のコースの感覚を覚えて行けばよいだろう。そして次の計画の山が36となった場合は、前の登山よりも+6体力が必要となる。その差も感覚的に覚えて行くようにすればよいと思う。

 

また、山やコースが変われば装備の重さも変わってくる。コース定数は必要体力を数値化したものだから、当然装備の重さも加味しなければならないだろう。

 

私は、あまり人の計算したコース定数を鵜呑みにせず、自分なりに計算して、数値と実際の山の感覚を養っていくことが大事と思う。とはいえ、百名山や整備された登山道のある山ならよいが、低山や藪岩山などの複雑な尾根ルートにまでコース定数の考え方をあてはめるのは難点がある。(小規模なアップダウンの繰り返しや、岩壁、きわめて傾斜のきつい斜面など体力に影響を及ぼす要素が複雑。) やはり経験を積んでいくしかないのかもしれない。

 

将来的には、登山のお伴をしてくれるAIスピーカのようなものと相談しながら登る時代がくるのではないだろうか。少し妄想してみると、

 

>今の心拍で大丈夫かい?

 

<はい、大丈夫です。

<不整脈もなく問題ありませんが、血液中の酸素量が少し減ってきました。

 

>この場所はオン ルートだろうな?

 

<はい、予定より10分遅れていますが、オン ルートです。

<次の尾根の分岐は斜め左下に下降します。

 

>おいおい、あまりおしゃべりが過ぎると、登山のだいご味がなくなるじゃ   ないか。

 

<失礼しました。

<すこし発汗させて体温を下げ、酸素量も回復させましょう。

<この辺で10分休憩をお勧めします。遅れはあとで取り戻せます。

 

.......

 

 

 

 

 

 

参考文献: 山と渓谷 2017年1月号

 

 

 

 

 

 

 

(熊五郎)

 

コメント(2)

  • ヤマに上る方って本当にお好きだから、いくつになっても登られたいでしょう。いろいろな準備が必要ですね。

    ブロ友マックさんは私と同じ年80歳今でも毎週のように山歩きを楽しまれています。普段はご自分の庭のような六甲山ですが時にはかなり遠くまでいかれます。 2017/11/15(水) 午後 0:05

  • > agewisdomさんそうですね。いつまでも若ぶっていられませんので、年齢を意識した登り方をしなければと思っています。(熊五郎) 2017/11/15(水) 午後 3:16