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「続 静かなる山」 川崎、望月、山田、中西、横山 共著

投稿日 2017年06年06日

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茗渓社 「続 静かなる山」川崎精雄、望月達夫、山田哲郎、中西 章、横山厚夫 共著

昭和55年11月発行 1800円 205ページ

収録山座数 97

川崎精雄 20

望月達夫 20

山田哲郎 20

中西 章 20

横山厚夫 17

装釘・口絵 藤井 実

写真数 8 すべて著者たちが撮ったもの(モノクロ)

 

前回の「静かなる山」の続編である。著者や口絵の藤井氏は同じである。装丁も同じにしてカバーの色を変えてある。カットや口絵、写真が差し替えられている

 

収録の山の数は同じ97座であるが、続編では福島県や山形県など東北の山が多くなっている。同じ静かな山ということで、聞いたこともない山々が多く含まれている。

 

「静かなる山」の発刊は昭和53年7月だったが、発刊時、1年くらい後には続編の発刊ができるよう準備していたようだが、実際には55年の11月になった。それにしても共著とはいえ、これだけの数の山々をひとつひとつエピソードなどとともに取り上げるのは並大抵の努力ではなかったろうと思う。

 

これら登山の先人たちは、登山家であると同時に、記録家であり、思想家であり、文学家であったのかも知れない。

 

今回はまえがきを川崎氏が担当しているが、前編のまえがきのあらましとしてこう書いている。

 

「執筆者一同は、静かなる山をことのほか好む。このような傾向の山登りを好む人や、そんな山があるなら行ってみたい、と思っている人も案外あるのではないか。その人たちに読んでいただくため、分担執筆を計画した。ここに収めた九十七座の山は、僅かの例外を除いて、殆どがガイドブックに載っていない。これは案内として使われるには充分ではない。克明に過ぎるガイドブックには賛成しない。自分で苦しんで調べるところに、山登りの愉しみの第一歩があると信じる。記述の形は自由とした」

 

掲載されている山は下(稿末)に列挙したが、この続編もまた聞き慣れない、いや聞いたこともない山が並んでいる。東北の山々は私にとってはいたしかたないことだが。

 

鹿穴

貝鳴山

黒男山

日山

羽山

テンキチョウ

丁岳

真昼岳 などなど

なお、続編にはいくつかの峠も含まれている。

 

ある程度知っている山や、登ったことのある山なら筆者らのエピソードはすんなり頭に入ってきて、あぁあそこかとか、そうそうあの景色というように懐かしがりながら読み進む。福島県の山のようにまったくその山や、その山のある地域についての知識が無い場合は、うむ、こんなところもあるんだと自分で想像しながら読み進む。それぞれに楽しい。

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口絵 藤井 実氏 画 「奥秩父の山小屋(将監小屋)」 

 

この続編にもカバーの表に山のペン画、背表紙、裏表紙、見開きにかわいいカット、カラーの口絵が添えられている。とにかくこの口絵(上の写真)は、この本を開いた者に、これから広がる静かな山の世界を想像させわくわくさせてくれる。

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写真 左 残雪豊かな五剣谷岳撮影(望月氏) 右 四郎岳への途中(撮影 横山氏)

 

前編には16枚の写真が掲載されていたが、続編では8枚となっている。いずれもすばらしいものばかりだ。すべてモノクロだが、各著者が撮ったもの。これら先人たちは、残雪期にも積極的に登ってることが伺える。

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写真 左 春の坪入山(撮影 中に氏) 右 朝陽に映える毛猛山(撮影 山田氏)

 

これら残雪期の山は、ちょうど現地のマタギが冬眠から醒める熊を撃つ時期であろう。彼らにとっても熊に出会うことが多かったのではないかと想像する。新潟や東北の残雪の山、マタギなどの活躍、雪解け水、ブナの新緑、スプリングエフェメラル、どれをとっても魅力的な世界だ。

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各山の説明は見開き2ページに収められている

 

山はすべて見開きの2ページに収められている。それぞれに興味深い話が載っているが、その中のひとつを紹介する。

 

杖植峠(つえたてとうげ)

 

先にも書いたように、続編ではいくつかの峠も紹介されている。この杖植峠もそのひとつだ。

 

杖植峠は西上州では名の知れ渡った峠で、多くの先人たちが下仁田から神流川側(多野)に抜ける峠として利用してきた。多くの人がこの峠に思いを寄せて西上州から多野、奥多野への旅を思い思いに楽しんだのである。この中で横山氏はこう書いている。(一部)

 

「神流川の流域には古くから人が住みついていたようで、その袋小路のような谷間から、外界との接触を求める人々の切実な願いが、多くの峠道をひらくことになったのであろう。ざっと数えても二十以上の峠がある。現在、それらのうちには車道が通ってしまったところもあるが、旧態依然の歩くしかなく、道祖神のみがたまの旅人を喜ぶ、かぼそい峠道も何本かは残されている。」

 

また、大島亮吉の「峠」から引用して、

 

「峠の登り下りをたどるとき、私はきまって、次の一節を想い浮かべた、「峠ひとつを境にして此処と向うとの気候や風土のちがう時の、その峠越えはまた一種特別の情趣をもって私等を惹く。ことにそれが暗い国から明るい国へ、寒い土地から暖かい土地へ越してゆくときはなおさらだ」」

 

みやま文庫の「群馬の峠」によれば、群馬県内には312ほどの峠があるそうだ。その中でも、横山氏が杖植峠など二十以上存在するとしている峠は、赤久縄、御荷鉾山系越えの峠に限定しても以下のように18峠あった。

 

峠名、読み、標高

中ノ黒川峠 なかのくろかわ 1200

黒川峠 くろかわ 1140

塩之沢峠 しおのさわ 1062

檜沢峠 ひさわ 1140

八倉峠 ようくら 1257

杖植峠 つえたて 1521

会場峠 かいしょ 

ホーロク峠 ほーろく 1213

塩沢峠 しおざわ 1073

不入戸峠 ふにゅうどう 1080

古峠 こ 1040

エビズクリ峠 えびずくり 

山ノ神峠 やまのかみ 

秋葉峠 あきば 980

投石峠 なげいし 1020

石神峠 いしがみ 860

仏南沢峠 ぶなんざわ 840

一本杉峠 いっぽんすぎ 600

 

多くの人はガイドブックを見て山に登る。それは必要な事だ。だがガイドブックは言わばHow To本にすぎない。山にかかわる本が数多くある中で、ガイドブックではない先人の残した山に向う心が書きとどめられているものも多い。山に向かい合う気持ち。それを養成してから山に登りたいものだ。

 

 

収録されている山

 

1. 天狗石山 1366m 静岡県(山田)

2. 八高山 832m 静岡県(山田)

3. 高ドッキョウ 1133m 山梨・静岡県境(望月)

4. 池口岳 2392m 長野・静岡県境(望月)

5. 青崩山 1086m 長野・静岡県境(山田)

6. 熊伏山 1653.3m 長野県(望月)

7. 畦ヶ丸 1293m 神奈川県(山田)

8. 中指山 1314.6m 山梨県(横山)

9. 入道山 714.4m 山梨・神奈川県境(横山)

10. 奈良倉山 1348.9m 山梨県(横山)

11. 大久保山 1241.7m 山梨県(中西)

12. お坊山 1452m 山梨県(横山)

13. 宮宕山 1360m 山梨県(横山)

14. 倉掛山 1777m 山梨県(横山)

15. 東御殿 1487m 山梨県(横山)

16. 滑沢山 1292m 山梨県(川崎)

17. 八幡山 1088m 山梨県(横山)

18. 棚山 1171m 山梨県(川崎)

19. 鹿穴 989.8m 山梨県(横山)

20. 阿梨山 1102m 山梨県(川崎)

21. 御殿山 1670m 山梨県(川崎)

22. 御堂山 1634.2m 山梨県(望月)

23. 鳥倉山 2023m 長野県(川崎)

24. 唐沢岳 2632.4m 長野県(望月)

25. 蕎麦粒山 1297m 岐阜県(望月)

26. 笠取山 1953m 山梨・埼玉県境(横山)

27. 小川山 2418m 山梨・長野県境(山田)

28. 不動山 549m 埼玉県(横山)

29. 塚山 953.9m 埼玉県(横山)

30. 帳付山 1619m 埼玉・群馬県境(望月)

31. 大桁山 836m 群馬県(横山)

32. 杖植峠 1440m 群馬県(横山)

33. 蟻川岳 853m 群馬県(中西)

34. 菅峰 1473.5m 群馬県(中西)

35. 掃部ヶ岳 1448m 群馬県(川崎)

36. コモギ峠 1024m 群馬県(川崎)

37. 玉原越 1220m 群馬県(川崎)

38. 稲包山 1597.5m 群馬県(中西)

39. 小出股山 1749.1m 群馬県(中西)

40. 四郎岳 2156.1m 群馬県(横山)

41. 山王帽子山 2085m 栃木県(横山)

42. 大佐飛山 1908.4m 栃木県(中西)

43. 粟ヶ岳 129.7m 新潟県(横山)

44. 五剣谷岳 1187.7m 新潟県(望月)

45. 高陽山 1126.5m 福島・新潟県境(中西)

46. 日尊ノ倉山 1262m 福島・新潟県境(中西)

47. 八十里越 845.4m 新潟・福島県境(山田)

48. 毛猛山 1517m 福島・新潟県境(山田)

49. 赤崩山 1835m 福島県(川崎)

50. 高旗山 968.1m 福島県(山田)

51. 厩岳山 1264m 福島県(中西)

52. 白布山 1220.6m 福島県(中西)

53. 布森山 1177.9m 福島県(中西)

54. 烏帽子岳 1095.4m 福島県(中西)

55. 神籠ヶ岳 1376.3m 福島県(中西)

56. 大内横山 1378.8m 福島県(山田)

57. 見明山 1161m 福島県(川崎)

58. 水抜高倉山 1307.5m 福島県(中西)

59. 観音山 1640m 福島県(中西)

60. 貝鳴山 1136m 福島県(川崎)

61. 土倉山 1559.8m 福島県(山田)

62. 白身山 1769.2m 福島県(望月)

63. 唐倉山 1176m 福島県(山田)

64. 丸山 1488m 福島県(望月)

65. 坪入山 1774.2m 福島県(望月)

66. 三ツ岩岳 2065m 福島県(望月)

67. 黒男山 980.4m 福島県(山田)

68. 玉梨高森山 1100m 福島県(中西)

69. 笠倉山 994m 福島県(山田)

70. 田子倉横山 1417m 福島県(山田)

71. 城郭朝日山 1448m 福島県(川崎)

72. 火奴山 1374.8m 福島県(中西)

73. 丸山岳 1820m 福島県(望月)

74. 高幽山 1746.9m 福島県(山田)

75. 日山 1057m 福島県(川崎)

76. 鶴石山 767m 福島県(川崎)

77. 羽山 970.3m 福島県(望月)

78. テンキチョウ 770.9m 福島県(望月)

79. 栄蔵室 881.6m 茨城県(望月)

80. 豪士山 1022.4m 福島・山形県境(望月)

81. 飯森山 1595m 山形・福島県境(川崎)

82. 葉山 1201m 山形県(川崎)

83. 甑岳 1015m 山形県(川崎)

84. 火打岳 1238m 山形県(中西)

85. 小又山 1367m 山形県(山田)

86. 祝瓶山 1417m 山形県(望月) 

87. 甑峠 751m 山形・秋田県境(川崎)

88. 烏帽子山 954m 秋田県(川崎)

89. 神室山 1365m 秋田・山形県境(望月)

90. 丁岳 1146m 山形・秋田県境(中西)

91. 虎毛山 1432.1m 秋田県(山田)

92. 太平山 1171m 秋田県(山田)

93. 真山、本山 567m,715.2m 秋田県(山田)

94. 田代岳 1177.8m 秋田県(山田)

95. 森吉山 1454.2m 秋田県

96. 真昼岳 1060m 岩手・秋田県境(川崎)

97. 薬師岳 1645m 岩手県(望月)

 

 

 

 

 

(熊五郎)

コメント(2)

  • 素敵な絵ですね。この感じとても好きです。 (agewisdom) 2017/6/6(火) 午後 10:03

  • > agewisdomさん こんな絵を見るたびに描きたくなります。ハードルは高いですが。(熊五郎) 2017/6/7(水) 午前 6:27

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