西上州 「万場の家並み」                                                                              投稿日 2017年06年01日

山の本にはすばらしい口絵付きのものがある。

 

この絵もその一つで、茗渓社の「静かなる山」の口絵である。

水彩画_万場の家並み.jpg

茗渓社「静かなる山」の口絵 藤井 実 「万場の家並み」

右の群青色の台形の山は「叶山」

左のうす紫の山は「二子山」

手前に万場の町を見下ろす

川は神流川 

 

 

ちょっと見ると、よくあるような山里を描いた絵だが、山に登り西上州を愛するものにとっては、ひじょうに興味深い絵であり、郷愁をそそられる絵でもある。

 

この絵に描かれている家並みは、群馬県の神流川(かんながわ)上流部にある「万場」(まんば)という、この辺りでは比較的大きな山里である。

 

高いところから見下ろした絵で、神流川が悠々と流れ、重なる山並みは、この地が山奥であることを物語っている。方角は西である。川沿いには、わずかな平地に家々が肩を寄せ合うように並んでいる。

 

左の大きな木は冬枯れの桑の木で、急斜面を畑として耕していることも分かる。畑には桑や蕎麦、蒟蒻などが植えられるのだろうか。今は作物らしいものは無さそうだ。

 

空は真冬によくある黄金色の冬晴れで、黄昏時だ。空の金色は、神流川の水面に油を流したように反射している。おそらく無風か風の殆どない夕方だろう。

 

見えている山は、神流川上流部、いわゆる「山中領」と言われる山域の山々だが、目立つのは右の台形の山「叶山」(かのうさん)だ。そして、叶山からそのまま左に目線をずらすとうす紫色で描かれた「二子山」(ふたごやま)がある。

 

叶山は石灰岩の山であったから、削られて今ではその姿がすっかり変わってしまった。だからこの絵は叶山の在りし日、昭和57年ごろ以前に描かれたものということになるのだが、「静かなる山」の発刊は昭和53年だから、その数年前位と考えるのが妥当だろう。

 

描いた藤井 実氏はどうしてこんな高い場所にわざわざ登ってきて描いたのだろうか。私は叶山と二子山をメインとして山中領の山々を万場の人の生活とともに描きたかったのであろうと思っている。

 

この絵が空想で書かれたものではなく、実際に現場を見て書かれたことの証拠がひとつある。それは山の稜線にわずかに描かれた金色の線だ。落葉広葉樹の多いこの辺りの山は、冬枯れで木々は葉を落とす。稜線に立ち並ぶ木々も裸となって、稜線に沿ってわずかに背後が透けて見える線ができる。そこに黄昏の金色の光が通って、金色の線が浮かび上がる。

 

そう考えると、この絵は、単に高所からの眺めだけを狙ったものではなく、冬の快晴の日で黄金色の黄昏時を狙って描かれたものであることがわかる。

 

山屋にとっては味わえる一枚だ。

 

 

 

 

(熊五郎)

コメント(2)

  • 構図が素敵。山懐に抱かれた村落の静けさが伝わってきます。 (agewisdom) 2017/6/1(木) 午後 8:39

  • > agewisdomさん こういう絵がかけたらよいのですが。 (熊五郎) 2017/6/1(木) 午後 9:00