南アルプス赤石岳 幻の滝

投稿日 2016年08月01日

登山者でも殆ど目にすることはできないであろう、赤石岳山頂直下西面に現れる幻の滝について書いてみる。

 

もう34年も前になるが、昭和57年8月1から6日。私は畑薙第一ダムの大吊橋から茶臼岳、上河内岳、聖岳、兎岳、大沢岳、赤石岳と縦走し、小渋温泉に降りた。

 

その頃、7月27日、台風10号が発生し、8月1日愛知県の知多半島付近に上陸。南アルプスを舐めて翌2日には日本海に出た。

 

この台風はどちらかというと雨台風で、西日本から中部地方にかけて豪雨をもたらした。各地で多くの被害が出たが、富士川下流のJR東海道本線の鉄橋が流され、長く不通になったことは、記憶している人も多いのではないだろうか。

 

私は台風接近を前にして、一過の晴天を期待してか?8月1日に入山した。無茶をやるものである。会社の休みがずらせない都合もあっただろうが、ふつうなら中止するだろう。若かった。

 

計画ではすべて野営(テント)するつもりだったが、さすがに台風が頭上を通過した1日は、予定の茶臼小屋までも到着できす、一段下の横窪沢小屋泊となった。野営できるはずもなく、小屋にお世話になった。

 

その夜は風雨が小屋をたたきつけ、飛ばされそうな小屋であったが、小屋番が部屋の中央にランプを灯してくれて、いろいろ話をしながら不安な夜を過ごした。

 

翌2日、雲は多いものの歩けそうだったので、上河内岳の二重稜線地帯を辿って、聖平に至った。夜は再び雨となり、テントの下を水が流れるような状態で根性の夜を過ごしたが、翌3日、聖平小屋から、まだまだ出水が多く、危険なので移動下山しないように言われ、もう一日停滞を余儀なくされた。

 

聖平にある窪筋でも、水流が多く簡単には渡れないくらいだった。

 

4日朝、青い実をたわわにつけたシラビソの枝や倒木が散乱する道を、何度も乗り越えながら聖岳を越えて百間洞で野営。5日朝、快晴の空の下、馬の背あたりから目前に赤石岳が迫った。

赤石岳幻の滝01.jpg

南アルプス 赤石岳山頂部

赤石岳西面の山頂直下に滝が出現していた

幅1m、高さ50mくらいの立派な滝

(国土地理院電子国土地図をカシミール3Dでカットし情報追加)

 

 

その赤石岳西面の山頂直下に一条の滝が真っすぐ落ちていた。幅は1mくらいはあったろうか。とにかくちょろちょろではない。傍に行けばおそらく轟々と音を響かせるくらいの水量だ。高さは50mはあったろうか。りっぱな大滝だった。

 

地図にも滝があるとは書いていないし、とにかく山頂直下から、これだけの水量の滝が落ちているのは不思議ではあったが、さすが山脈の名前(赤石山脈)にもなるくらいの主峰、赤石岳だと、その貫録に圧倒されていた。

赤石岳幻の滝02.jpg

馬の背付近からの赤石岳

西面の山頂直下に、このような感じで滝が現れた

確認日 昭和57年8月4日午前 馬の背付近から

(カシミール3Dで作画し情報追加)

 

その後赤石岳山頂に出たら、山頂部にある窪地に残雪があったことから、なるほど残雪がある間は、それを水源に滝ができるのだなとガッテンしたまま34年が過ぎた。

 

これまで何の疑いもしなかったが、考えてみると、

 

残雪を水源とするには水量が多すぎる

知る限りのどんな地図、文献にも、その滝の存在は記されていない

現在ネット検索しても、引っかからない。

 

このため、思い当たるのは台風がもたらした豪雨だ。山頂の窪地に水たまりがあったかどうかは記憶がないので、水源については不明だが、山頂のどこかに貯水構造があり、大雨の後しばらく滝を出現させるのではないだろうか。

赤石岳幻の滝03.jpg

当時の赤石岳山頂部

窪地に残雪があるが、この程度の残雪では大きな滝は現れないだろう

避難小屋は現在のものより小さかった

 

だとすると、あの滝は雨の直後にしか現れない滝。しかも、たぶんある程度の雨量がないと現れないだろうから、見た人がほとんどいない幻の滝ではないだろうか。

 

このあと小赤石岳から大聖寺平、小渋川を下り小渋温泉に下った。小渋川上流部の水面すれすれにかかっていたであろう吊橋はことごとく流され、ワイヤーだけが残っていた。このため何度も渡渉を余儀なくされ、水量の多さもあって下降は遅々と進まず。途中、ごうごうと流れる沢の少し高い小平地を見つけてビバークとなった。少し岩が露出しているようなところからは、いたるところ不気味なくらい水が湧いていたため、いつ土砂崩れが起きるかわからず、不安な夜だった。

 

翌6日、残りの小渋川を下降し、最後に籠渡し(一人乗りのゴンドラで、自分でロープを引っ張る)で対岸に渡り、やっとの思いで小渋温泉に出た。この籠渡しは沢床からかなり高いところにかかっているため、使用可能だったのはラッキーだった。

 

写真も何の証拠も残っていないし、これまで34年間、山頂部に残雪がある期間は滝ができるのだと思い込んでいたため、とくに取り上げることはしなかった。しかし今ネット等で調べてみてもまったく取り上げている人が見当たらないため、幻の滝として書いてみた。

 

山で台風をやり過ごすという、無茶な登山者に、大雨の後涙を流して泣いている姿を見られてしまった赤石岳。雄峰赤石岳もたまには泣くこともあるのだろう。

 

 

 

 

(熊五郎)

 

コメント(2)

  • 神秘的な滝のお話ですねえ。 (agewisdom) 2016/8/1(月) 午後 6:06

  • > agewisdomさん そうなんですよ。34年間頭の中で落ちてました! (熊五郎) 2016/8/1(月) 午後 6:09