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南アルプス 冬の弘法小屋尾根最上部から間ノ岳(1985/12/31)

 

 
山で夜を迎えるとき、あなたは「山小屋派」ですか?それとも「テント派」? 私は幕営禁止などの特に事情がない限り「テント」です。

 

テントだからこそ真の静けさが味わえ、何時間でも満天の星空を眺めていることができるからです。

 

陽が落ちてあたりが夕闇に包まれる前に食事を済ませ、今日ここにたどり着くまでの行程を思い出し、明日のルートを確認してシェラフにもぐりこみます。静けさの中でひとり家族のことや、恋人のことを思い出し、時には涙がでることもありました。

 

普段の生活では味わえないことをあえて求め、こんな山の中でひとり雪の上に横たわっています。大晦日のラジオからは紅白歌合戦が聞こえ、下界ではさまざまな家族が茶の間で新しい年を迎えようとしていることを想像します。

 

そのうちにぎやかな時間は過ぎて、ゆく年くる年の梵鐘の音が聞こえてきます。心配する家族をよそに、毎年山の中で新年を迎えることに、いくばくかの罪を感じながらも、暮になるといつも雪山への思いが再燃してきます。そんな自分を情けなく思えることもあります。

 

あたりは闇に閉ざされ、風が騒ぐテントの中で、果たしてこの山は朝まで機嫌よく、私を眠りに着かせてくれるだろうかと考えながら、やがてはまどろみの世界に入ってゆきます。

 

そんなときに、ラジオから非常に深いフェージング(ラジオの電波が強くなったり弱くなったりする現象)を伴って、この歌が聞こえてきました。それ以来この歌を聴くとあの山での一夜を思い出します。倍賞千恵子の透き通った美しい声に、多くの山男たちは癒されたにちがいありません。

 

(PCのスピーカボタンのスライドボリュームを操作して、フェージングを作って聞いてみてください。) 

 

(熊五郎)

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