LT3790使用の昇降圧コンバーター

投稿日 2021/08/18

12Vのバッテリを13.8Vに昇圧してくれる電流容量5Aくらいのコンバーターは無いものかと探していました。以前2Aの昇圧コンバーター「LT1170使用の昇圧コンバータ」は作ったのですが、5AとなるとDC-DCコンバーター・チップも高価ですし、回路も複雑になってきて部品をさがすのも大変です。そこで、アマゾン等を物色するわけですが、中華製は使う気にもなりません。そこで見つけたのが、ストロベリー・リナックスの「LT3790昇降圧型・大電流DC-DCコンバーターモジュール」(以下モジュール)です。さすがに、ストロベリー・リナックスさん、詳細な資料やQ&Aがあって信頼できます。LT3790はパーツ購入して作れなくはなさそうですが、このクラスになると、IC周りの回路も複雑で部品集めも配線も大変ですので、今回はこのモジュールを使うことにしました。価格は送料も入れて6,177円でした。

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LT3790 標準応用例

Data Sheetより

LT3790は上の応用回路例からもわかる様に同期整流式4スイッチ昇降圧コントローラーで、MOSFETを外部に4つ配置しなければなりません。ストロベリー・リナックスのモジュールの回路は公開されていませんが、おそらくこの標準応用例に準じていると思われます。

LT3790の特徴

  • 4スイッチのシングル・インダクタ・アーキテクチャにより、
         出力電圧より高い、低い、または等しい入力電圧が可能

  • 同期スイッチング:最大98.5%の効率

  • 広い入力電圧範囲:4.7V~60V

  • 2%の出力電圧精度:1.2V ≤ VOUT < 60V

  • 6%の出力電流精度:0V ≤ VOUT < 60V

  • 電流モニタ出力による入力および出力の電流レギュレーション

  • 降圧または昇圧動作時に上側FETのリフレッシュ不要

  • シャットダウン時にVINからVOUTを切断

  • C/10充電終了フラグおよび出力短絡フラグ

  • デバイス1個につき100W以上が可能

  • 容易な並列接続による出力電力の増強

  • 露出パッドを備えた38ピンTSSOPパッケージ

(アナログデバイセズ社の説明ページより)

 

ざっくり言うと、入力電圧範囲、出力電圧範囲ともに広く、効率もよい。保護回路が付いているなど、使いやすいデバイスです。今回使用したモジュールの場合、電流容量は、昇圧時最大5A、降圧時最大10Aとなっています。モジュールは名刺くらいのサイズで、ヒートシンクはありません。

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ストロベリー・リナックスの「LT3790昇降圧型・大電流DC-DCコンバーターモジュール」

​プラスチックケースに組み込んでみました

写真のようにヒートシンクは無い

​左の軍用端子がVout

このモジュールの用途ですが、入力電圧範囲が広い(9.5Vから42V)ので、鉛バッテリやリチウムバッテリを、無線機の一般的な電源電圧である13.8Vに昇降圧するのに適しています。たとえば鉛バッテリは充電直後は12.6Vくらいですが、使い始めるとリニア?に電圧が降下し、11Vくらいが限界です。それを13.8V一定に昇圧します。また、リチウムイオン電池にはジャンプスターターのように初期の電圧の高いものもあるので、それを降圧するのにも使えます。また、24Vバッテリの降圧などにも使えます。

​いずれにせよ、無線機にとっては電源規格である13.8V一定で使ってやるのが送信パワーの面でも有利ですので、入力電圧が何ボルトであろうが13.8Vを維持してくれるのは、使いやすいものです。なお、電流容量5Aですと、10Wまでの無線機を移動で使うような場合が想定できます。

今回は、このLT3790使用の昇降圧DC-DCモジュールの性能を計測してみました。

試験項目は、

入力電圧0 - 32V VS 出力電圧13.8V (出力電流一定 1A 3A 5A)

〇出力電流 0から5Aまでの効率(出力電圧13.8V)

〇出力電流1A 3A 5Aの連続使用の場合の発熱

〇出力電流 無負荷 1A 3A 5Aの出力電圧のリプル観測

​〇フル充電の鉛バッテリ 13.8V昇圧 持続テスト 0.5A 15秒 - 3A 15秒 交互切り替え(無線機使用を想定)

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入力電圧0 - 32V VS 出力電圧13.8V (出力電流一定 1A 3A 5A)

入力電圧を0Vから32Vまで変化させて(UVLOの設定VRは半時計回りに回し切っておく)、出力電圧の変化を見ます。このとき、出力にかける負荷は、1A, 3A, 5Aを選びました。LT3790は入力電圧が広範囲です。入力電圧が0Vから32Vまで変化したとき、出力電圧にどのくらい影響があるか、一定の負荷をかけながら調べます。前述のように、たとえば鉛バッテリのような場合、負荷をかけると12.6Vあたりから直ちに電圧降下し始めます。だいたい11Vくらいに降下するまで使いたいものです。このモジュールを使えば電圧が11Vに降下しても13.8Vを保ってくれるはずです。

上のグラフがその計測結果です。グラフを見ると、まず、負荷1A, 3A, 5Aで出力電圧に若干差があります。これは配線によるロスを含んでますのでモジュールの性能そのままではありません。

負荷 1Aの場合 平均出力電圧 13.80V

​負荷 3Aの場合 平均出力電圧 13.66V  1Aとの差 -0.14V

​負荷 5Aの場合 平均出力電圧 13.51V   3Aとの差 -0.15V

 

出力電圧が設定の13.8V付近になる立ち上がり電圧は、入力電圧が8.98Vからです。負荷による違いはあまりありません。なお、この立ち上がり電圧はUVLO設定VRによって設定できます。たとえば10Vにしておけば、10Vを下回った時点で動作が停止しますので、バッテリ等を過放電から防げます。

出力電圧(出力電圧設定VRで12Vから24Vの範囲で設定可能)を13.8Vに設定しているので、入力電圧が13.8Vより低い場合は昇圧動作。高い場合は降圧動作となります。昇圧動作の場合は入力電流は出力電流よりも大きく、降圧動作の場合は小さくなります。(電力は一定ですのであたりまえ)この切り替わり点で入力電流が出力電流よりも高いか低いかが決まります。グラフより出力が13.8Vの場合、どの負荷電流でも切り替わり点は14.6V付近であることがわかります。

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〇出力電流 0から5Aまでの効率(出力電圧13.8V)

効率は負荷電流Ioutを0から5Aまで変化させた場合を計測しました。各負荷電流での入力側の電力と出力側の電力の比を100倍したものです。入力側の電力と出力側の電力が等しければ、モジュール内でのロスが無く効率は100%となりますが、高効率のDC-DCコンバーターといえどもロスはあります。

 

今回の測定では、入力電圧が10V, 12V, 16V, 20V, 24V, 32Vのとき、負荷電流を0Aから5Aまで変化させ、Vin x Iin およびVout x Ioutを実測し、計算で電力と効率を求めています。結果、ほぼ85%を上回っていることがわかります。

 

〇出力電流1A 3A 5Aの連続使用の場合の発熱

Vin 12V、Vout 13.8Vの設定で、負荷電流1A, 3A, 5Aで30分経過後の発熱を観測しました。非接触温度計でモジュールのコイルのあたりの発熱を観測しようとしたのですが、体温用なので40度以上あるとHIと表示され温度がわからないので諦めました。そこでざっくりですが、指で触った感じです。

Vin 12V, Vout 13.80V

負荷電流1Aで30分連続使用後の温度 --- 体温より少し暖かい程度

負荷電流3Aで30分連続使用後の温度 --- お風呂のお湯程度

負荷電流5Aで30分連続使用後の温度 --- 指が少し痛く感じる程度(触れない温度ではない)

​5Aで連続使用しても指で触れるくらいしか発熱しません。前術の効率のよさからもわかりますが、ヒートシンクが要らないのもうなづけます。

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無負荷(Vin 12V鉛バッテリ Vout 13.8V)

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負荷電流1A (Vin 12V鉛バッテリ Vout 13.8V)

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負荷電流3A (Vin 12V鉛バッテリ Vout 13.8V)

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負荷電流5A (Vin 12V鉛バッテリ Vout 13.8V)

〇出力電流1A 3A 5Aの出力電圧のリプル観測(入力 12V鉛バッテリ 出力 13.8V)

今回は無線機で使用するのが目的ですので、このモジュールから発生するノイズも気になります。そこで、負荷電流1A, 3A, 5Aの場合のVoutの出力電圧波形を観測してみました。

無負荷時 40mVpp

負荷電流1A 64mVpp

負荷電流3A 144mVpp

負荷電流5A 224mVpp

 

AMラジオを近づけた場合 Iout 5Aの動作中で、30cm以内に近づけるとザーというノイズが入ります。少し離して、無線機の電源として使用した場合、まったくノイズは感じませんでした。

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〇フル充電の鉛バッテリ 13.8V昇圧 持続テスト 0.5A 15秒 - 3A 15秒 交互切り替え(無線機使用を想定)

最後にこのLT3790 昇降圧DC-DCモジュールを鉛バッテリで使用した場合の実験です。これは移動先で10Wくらいの無線機を運用する場合を想定しています。使用した鉛バッテリは、2年ほど使用した軽自動車用の安価で一般的な鉛バッテリです。2年車で使用し、さらに2年ほどときどき充電しながらいろいろな用途に使っていましたが、まだヘタってはいません。フル充電後の電圧は12.6Vくらいでした。(新品だと13.6Vくらいになるかもしれません)

コンバーターの出力は13.8Vに設定し、無線機の送受を想定して、負荷電流0.5Aで15秒、3Aで15秒を交互に繰り返しました。これで鉛バッテリの出力電圧が11.0Vになるまで何時間かかるかを計測しました。

結果は上記グラフの通りです。鉛バッテリの出力電圧が11.0Vに降下するまで5時間40分でした。DC-DCコンバーターの出力は13.8Vをずっと維持しています。鉛バッテリの出力電圧は、負荷電流が0.5Aのときと、3Aのときで差があり、電圧降下(最終で)約0.6Vあります。これは配線による電圧降下も含みますが、鉛バッテリは古くなると内部抵抗が徐々に大きくなるので、大きな電流を流すと電圧降下が激しくなってきます。このためこの負荷電流による電圧降下はバッテリの新旧によっても違ってきます。言えることは、そのような電圧変化があっても、DC-DCコンバーターモジュールの出力は常に13.8V一定であることです。これは無線機にとっては重要なことで、電信(CW)のような送受信が激しく切り替わるような場合に、送信波形が鈍らないためにも重要です。

以上、LT3790 昇降圧DCDCモジュールの評価をしてみました。結果は、さすがリニアテクノロジー(現アナログデバイセズ)。性能がよく使いやすいデバイスを提供してくれています。中華製の怪しいモジュールを使うよりはよっぽど信頼でき安心して使えます。今回は負荷電流5Aに留めましたが、スイッチサイエンスによると降圧動作時は10Aまで使えるそうなので、時間があったら試してみたいと思います。LT3790はチップで入手できますし、外付けのMOSFETやコイルなども入手できる範囲なので、一度部品を集めてバラから自作してみるのも面白いと思います。その際、データーシートに掲載されている、並列接続で電流容量を増やす実験もやってみたいものです。

アマチュア無線の移動運用で、10Wクラスの無線機での移動では、鉛バッテリ(車用の安価なもの)をフル充電して持って行けば、13.8V一定で5時間40分は無理なく使えるということになります。12Vのバッテリを直接使うよりは、このモジュールで13.8Vに昇降圧し、なるべく無線機のパフォーマンスを出し切って運用するのがよいと思います。

 

 

 

 

(JF1VRR)