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TS-520の受信周波数構成

​投稿日 2021年02月03日

TS520_1.jpg

今となっては懐かしいトリオHFトランシーバー TS-520

ダブル・コンバージョン 第一中間周波数 8.895000MHz 第二中間周波数 3.395000MHz

トリオのHFトランシーバー TS-520の受信時の周波数構成をまとめてみました。

 

HFトランシーバーのような通信型受信機の回路構成にはシングル・コンバージョン、ダブル・コンバージョン、トリプル・コンバージョン等がありますが、それらは中間周波(IF)の数で決まります。一般的なラジオの五球スーパーは、中間周波数455KHzを使用したシングル・コンバージョン受信機といえます。今回取り上げたTS-520はダブル・コンバージョンで、第一中間周波が8.895MHz(から600Hz幅)、第二中間周波が3.395MHzです。通過帯域幅2.4KHzのSSBクリスタル・フィルターは第二中間周波に入っています。トリプル・コンバージョンはさらに455KHzなどに変換してから検波する場合が多いと思いますが、この場合は低い周波数で特性の鋭いフィルターを通すことができるので、より選択性能を改善することが出来ます。

 

TS-520はダブル・コンバージョンの受信機ですから二回周波数変換を行うので、二つの中間周波があります。一回目は固定周波数のヘテロダインOSCと受信周波数をミックスすることによって行います。ヘテロダインOSCは水晶発振回路が使われており安定度を確保しています。

各ハムバンドのヘテロダインOSC周波数と第一中間周波は以下のようになっています。

ヘテロダインOSC周波数

1.8MHz 10.695000MHz

3.5MHz 12.395000MHz

7MHz 15.895000MHz

14MHz 22.895000MHz

21MHz 29.895000MHz

28MHz 36.895000MHz

28.5MHZ 37.395000MHz

29.1MHz 37.995000MHz

第一中間周波は以下のように計算できます。例えば、

受信周波数が7.100000MHzでは、15.895MHz - 7.100000MHz = 8.795000MHz

受信周波数が21.100000MHzでは、29.895MHz - 21.100000MHz = 8.795000MHz

となります。

このようにヘテロダインOSCを切り替えてどのバンドでも、この第一中間周波8.895000MHzから8.295000MHzに変換されます。幅はVFOの可変幅に合わせて600KHzになっています。

つぎに第二中間周波への変換ですが、この変換はVFOとのミックスになります。VFOは可変周波数発振器で、TS-520の場合5.500000MHzから4.900000MHzの600KHz幅を発振します。VFOはメインダイヤルと直結されています。ダイヤルは最小1KHzの目盛になっています。ダイヤル0が5.500000MHz、ダイヤル600が4.900000MHzです。7MHzバンドであればダイヤル0が7.000000MHzで発振周波数は5.500000MHzです。ダイヤル100が7.100000MHzで発振周波数は5.400000MHzです。21MHzバンドであれば、ダイヤル0が21.000000MHzで発振周波数は5.500000MHz、ダイヤル450が21.450000MHzで発振周波数は5.050000MHzです。以上のようにVFOの発振周波数とダイヤルとの関係は、5.500000MHz - ダイヤル(0から600) x 0.001000MHz(1KHz)となります。

このVFOの周波数と第一中間周波がミックスされます。第一中間周波は8.895000MHzから8.295000MHzですから、第二中間周波は以下のように計算できます。例えば、

7.100000MHzの第一中間周波8.795000MHz - ダイヤル100のVFO周波数5.400000MHz = 3.395000MHz

21.100000MHzの第一中間周波8.795000MHz - ダイヤル100のVFO周波数5.400000MHz = 3.395000MHz

このようにVFOのダイヤルの位置によって、受信周波数に対応にした第一中間周波が、単一の第二中間周波3.395000MHzに変換されます。CWのように幅の無い単一周波数の断続信号は、すなわち第二中間周波3.395000MHzの断続となります。

第二中間周波3.395000MHzは、中心周波数3.395000MHzで通過帯域幅3KHz(実際には2.4KHzくらい)のSSBクリスタル・フィルター、または(実装されていれば)通過帯域500HzのCWクリスタル・フィルターによって濾波され、通過帯域外の不要な信号は減衰します。

CWの場合は、フィルター通過後、キャリアOSC(BFO)の 3.394300MHzとミックスされ、その差700HzがビートとなってスピーカーからCWトーンとして聞こえます。CWは単一周波数の断続でオーディオ信号で変調されていません。したがって通常の検波を行っても音にはなりません。このためTS-520の場合700Hzのビートが発生するように、700Hz離れた信号(一般にはBFO)を内部で作り、ビートを発生させてCWトーンとして聞いています。​最近の無線機では送信周波数を変えずにCWトーンを好みの周波数に可変できますが、TS-520は700Hz固定です。

 

ただ700HzはダイヤルがCW信号の周波数にジャストインしている場合のことで、CWトーンはVFOのダイヤルをずらせば好みのトーンにできフィルターの帯域範囲内であれば交信が可能です。

TS-520_FREQ_R_CW.jpg

CWはヘテロダインOSCとミックスされ一旦単一の第一中間周波数に変換される

第一中間周波数はVFOとミックスされて、単一の第二中間周波数に変換される

​700Hz離れたBFOとのビートをとって、700HzのCWトーンを聞く

次にSSBの場合ですが、変調波に約3KHzの幅があるので、それを意識して説明します。

7MHzのLSBで7.100000MHzを受信する場合、変調波の帯域を3KHzとすると、LSBなので受信帯域は7.097MHzから7.100MHzにスペクトラムがあります。抑圧された搬送波の位置は7.100000MHzです。

 

それにヘテロダインOSCの15.895000MHzがミックスされその差8.795000MHzから8.798000MHzの第一中間周波となります。ここでヘテロダイン周波数を受信周波数より高い周波数に選んでいるので高低が反転します。その第一中間周波とVFO(5.5から4.9MHz可変)の5.4015000MHz(ダイヤル100の1.5目盛上)がミックスされて第二中間周波の3.393500MHzから3.396500MHzに変換されます。これは中心3.395000MHz±1.5KHzです。

​TS-520の場合、ダイヤルメモリにはLSBの抑圧搬送波周波数、いわゆるキャリアセンターの位置がLSBと刻印されていますので、それに合わせると7.100000MHzがキャリアセンターになります。ダイヤルの100から1.5KHz低い方にずれています。

このあと第二中間周波はSSBクリスタル・フィルターを通過します。SSBクリスタル・フィルターは中心周波数3.395000MHzで通過帯域が3KHz(実際には2.4KHzくらい)です。 このフィルターにより3.393500MHzから3.396500MHz以外の信号は減衰します。

次に、3.3935000MHzから3.3965000MHzの信号はLSBキャリアOSCの3.393500MHzとミックスされて抑圧された搬送波周波数の位置にキャリアが注入され、リング復調器で検波されて変調波が取り出されます。このキャリアの注入位置は、変調波との位置関係が重要で、正確でないと復調できません。

TS-520_FREQ_R_LSB.jpg

LSBはヘテロダインOSCとミックスされ3KHz幅の第一中間周波に変換される

​ヘテロダインOSCが受信周波数より高いので差をとったとき高低が反転する

第一中間周波はVFOとミックスされて、3KHz幅の第二中間周波に変換される

SSBクリスタル・フィルターで不要信号をカットし

​キャリアを注入してリング復調器で検波し変調信号を取り出す

21MHzのUSBの場合、21.100000MHzを受信する場合、同じく変調波の帯域を3KHzとすると、USBなので受信帯域は21.100000MHzから21.103000MHzにスペクトラムがあります。

それにヘテロダインOSCの29.895000MHzがミックスされその差8.792000MHzから8.795000MHzの第一中間周波となります。ここでヘテロダイン周波数を受信周波数より高い周波数に選んでいるので高低が反転します。その第一中間周波とVFO(5.5から4.9MHz可変)の5.398500MHz(ダイヤル100の1.5目盛下)がミックスされて第二中間周波の3.393500MHzから3.396500MHzに変換されます。これは中心3.395000MHz±1.5KHzです。

TS-520の場合、ダイヤルメモリにはUSBの抑圧搬送波周波数、いわゆるキャリアセンターの位置がUSBと刻印されていますので、それに合わせると21.100000MHzがキャリアセンターになります。ダイヤルの100から1.5KHz高い方にずれています。

このあと第二中間周波はSSBクリスタル・フィルターを通過します。SSBクリスタル・フィルターは中心周波数3.395000MHzで通過帯域が3KHz(実際には2.4KHzくらい)です。 このフィルターにより3.3935MHzから3.3965MHz以外の信号は減衰します。

次に、3.3935000MHzから3.3965000MHzの信号はUSBキャリアOSCの3.3965MHzとミックスされて抑圧された搬送波周波数の位置にキャリアが注入され、リング復調器で検波されて変調波が取り出されます。

TS-520_FREQ_R_USB.jpg

USBはヘテロダインOSCとミックスされ3KHz幅の第一中間周波に変換される

​ヘテロダインOSCが受信周波数より高いので差をとったとき高低が反転する

第一中間周波はVFOとミックスされて、3KHz幅の第二中間周波に変換される

SSBクリスタル・フィルターで不要信号をカットし

​キャリアを注入してリング復調器で検波し変調信号を取り出す

以上、変調波の帯域を3KHzで説明しましたが、実際には300Hzから3KHzの2.7KHzくらいの帯域で変調されています。また、実際にはSSBクリスタル・フィルターの通過帯域は2.4KHzくらいですので、変調波全体を通過させるわけではありません。

TS-520の一つ前の機種TS-511シリーズでも同じ周波数構成です。TS-520はTS-511を引き継いで、ファイナルとドライバー以外をソリッドステート化したと言えます。

​TS-520はTS-520X/DからTS-520V/Sに進化しました。そのとき1.9MHZバンドやマイクコンプレッサーの追加が行われていますが周波数構成に変更はありません。

(JF1VRR)

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